2023年01月13日 公開

新春座談会 大田区製造業のDX化に向けた取り組み

令和5年が明けました。製造業においてはIT化で業務の効率化や生産性向上を図るだけでなく、データとデジタル技術を活用してビジネスモデルそのものを変革し、競争上の優位性を確立するDX(デジタルフォーメーション)の重要性がテーマとなっています。すでに様々なツールを活用してデジタル化を推進し、DXを目指されている方々にお集まりいただき、それぞれの取り組みについて語っていただきました。

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広瀬 安宏
株式会社伊和起ゲージ 代表取締役
一般社団法人大田工業連合会 会長

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波田野 哲二
ハタノ製作所 代表

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國廣 愛彦
株式会社フルハートジャパン
代表取締役
I-OTA合同会社 代表社員

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尾針 徹治
ムソー工業株式会社 代表取締役

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(司会)荒井 大悟
大田区産業経済部
産業調整担当課長

司会:はじめに、皆さま方の会社の紹介とデジタル化への取り組みをお聞かせください。

尾針さん:弊社は今から72年前に祖父が立ち上げた会社で、私で3代目になります。武蔵工業大学を出発点に大学発ベンチャーとして誕生して以来、研究者の方や大学向けに、材料評価に必要な試験品の加工などを行っています。デジタル化に関しては、主にホームページ(以下、HP)を活用した販路拡大や生産管理ソフトなどを使った業務の効率化に取り組み、できるだけ自分が動ける時間を増やすようにしています。

國廣さん:フルハートジャパンでは、計測制御をメインとした産業設備向け装置の設計から製造までを行っています。自動化、省力化を実現するための部分的なお手伝いをすることもあれば、システム全体をまとめて受注させていただくこともあります。理由は、一つひとつの加工で価格競争をしていくよりも、トータルコーディネイトを行うことで、より付加価値の高いものづくりをしていきたいからです。とはいえ、弊社が保有する協力会社だけでは大きな受注が入ってもお断りせざるを得ない場合もあります。そのため、大田区の仲間同士で技術や経験を補完し合い、より大きなソリューションを提供できるよう、2018年6月にI-OTA合同会社を設立しました。デジタルについては効率化目的だけでなく、その先の付加価値を含めて活用しなくてはならないツールだと捉えて取り組んでいます。

波田野さん:弊社の創業はコロナ禍の2020年です。私は元々家業の溶接工場で働いていたのですが、このままでは成長に限りがあると考えて独立しました。梅屋敷駅の高架下にある創業支援施設(梅森プラットフォーム)に関りを持たせていただいたところ、アーティストやプロダクトデザイナーの方とも知り合うことができました。オンラインコミュニケーションツールを活用して、多くの方と関わることができたらいいなと考えて活動しています。

広瀬会長:伊和起ゲージは今年で創業60年になります。当初から精密部品加工を手掛けており、現在はボールねじという主に半導体製造機械の駆動に使われる部品の製造販売を大田区で唯一展開しています。私は学生時代に経営工学を専攻し、情報処理やVA(価値分析)・VE(価値工学)について学んだことから、HPの制作にも携わっています。ところがある日ハッキングされてしまい、伊和起ゲージのページが自動的に削除されてしまいました。そうした経験もあって、大田工業連合会(以下、工連)では様々な活動の中で特に情報セキュリティの周知活動に力を入れています。

顧客に合わせたHPで新規を獲得

司会:尾針さんは最近、Webマーケティングを始められたと伺っています。その経緯と効果について教えてください。

尾針さん:私のように幼少時代にコマやメンコで遊んでいた世代の人間は、生まれた時からパソコンが身近にあったわけではありません。また弊社には一社依存型の傾向があり、新規開拓をしようとしても展示会では自社の技術を"見える化"させることが難しく、なかなかお客様をつかまえることができませんでした。そこで、経営コンサルティング会社のセミナーに参加したところ、HPを会社案内ではなく集客ツールとして積極的に活用しようという話があり、なるほど!と思いました。早速、HPを作成するためのガイドブックを買って来て、専門用語を一語一句調べながら立ち上げてみると、想像以上に多くの人に見てもらっていることが分かりました。しかも機能を追加すると、どのページが見られているのかも明らかになったんです。そこで、お客様に合わせて研究者の方が検索するような専門用語を散りばめると、アクセス数がどんどん伸びるだけでなく、問い合わせも来るようになりました。その後、業務委託してプロの方に少しずつ改善してもらった結果、今では毎年30社以上の新規を獲得することができています。

國廣さん:尾針さんのメルマガは最高です!ご自身が管理されたプロジェクトに参加・協力してくれた会社を全てオープンにして、ものづくりの楽しさ配信されていましたよね。それを見て本当に感動しました。今、こうして話していてもドキドキするぐらいです。大手と仕事をしていると公表して良いことと悪いことがあるので、そこをきちんと交渉するための労力は大きかったと思いますが、本当に素晴らしいメルマガだと思いました。弊社でも同じような配信ができれば、一緒に仕事をしている協力会社の人たちもさぞ喜ぶだろうと思いましたね。

波田野さん:メルマガを採用されているのには何か理由があるのですか?

尾針さん:Webマーケティングツールと連動していて、誰がいつ開封したかのかが分かるんです。それをまたAIが分析して、こういうメールは何曜日の何時に発信すると開封率が良いというのを教えてくれるので始めました。

ネットワークで付加価値を高める

司会:國廣さんは、ネットワーク構築についてどのようなお考えをお持ちですか。

國廣さん:1968年創業の弊社に私が入社したのは2005年頃です。先代の父親はゴルフの会などに参加していましたが、私はそうした集まりには顔を出さなかったので、他社との連携がなく友達もいませんでした。ところが代表者が私に代わる頃、大田区の町工場が中心となって世界に挑戦するソリを作る「下町ボブスレープロジェクト」が動き始め、様々な形でものづくりの方々と関係を持てるようになったんです。私にとっては非常にラッキーな出来事でした。なぜかというと、ネットワーク構築はとても大切だからです。その理由は2つあります。1つは、受託開発や受託加工をしていると、自社のキャパシティやリソースが足りないために技術力の優位性をアピールすることができず、付加価値が低くなってしまうこと。2つ目は、シンプルに受注を断りたくないということです。せっかく来た仕事を一旦断ってしまったら、もう二度と来なくなってしまうと思うんです。でも、弊社のリソースだけでは大手に太刀打ちできなくても、大田区というブランドでの経験と技術があれば、大手一社の技術部門よりもはるかに上のレベルになります。自分の会社だけが勝てれば良いと思っていても上手くいくものではありません。そうなるまでは皆でチームを組んで協働していこうというのがI-OTAの考えで、私もメンバーの一員として積極的に活動しています。

自らPRすることの大切さを実感

司会:SNSなどによる情報発信については、どのような取り組みをされているのでしょうか。

波田野さん:家業の溶接工場で働いている頃、工連主催のイベントを通して「@カマタ(アットカマタ)」というグループと出会い、デザイナーや建築家の方々と親しくなることができました。ある時、「こんなフレームを作れますか?」という相談をいただいたので製作したところ、とても喜んでくださいました。その時から、もし仕事を広げていくのであれば自社の作品を気に入ってくれる方をターゲットにしたいと考えていました。しかし、独立した会社は自分一人なので、予算もITの知識も限られています。そのため、現在は無料で作れるWebサイト、SNS、ツイッターを通して、弊社の情報を分かりやすく発信しています。まさに"SNS一人オープンファクトリー"といった感じで、誰からも声をかけてもらいやすいものにしたところ、「実は名前は隠しているけれど、普段はアート活動をしています」という方からお仕事の相談がありました。その方は、日頃から私のツイッターを見てくれていたそうです。社歴が浅く、知名度も低い弊社を指名してもらうためには、自分から発信して存在を知ってもらうことが大事だと実感しています。

司会:波田野さんは様々なコミュニケーションツールを活用されているようですが、どのように使い分けていらっしゃるのですか。

波田野さん:ツイッターで、「今日は残業を頑張ったからラーメンを食べました」などとつぶやいている方には人間味を感じます。ですから私も、「この加工は難しいけれど、完成した時の達成感はすごいんだよね!」といった親近感のあるメッセージを配信して、この人だったら一緒にものづくりをしたいと思ってもらえるようにしています。フェイスブックについては実際にお会いしたことがあったり、既にお付き合いをしている経営者の方がよく見てくださっているので、お見積りの相談などが来やすいです。HPは、弊社の概要や実績を掲載してお客様に安心感を与える記録庫のような存在です。気軽につながりたい方から弊社のことを詳しく知りたい方まで幅広く閲覧してもらえるよう、名刺の裏面にはツイッターとWebサイトのQRコードを載せています。

異業種との交流で情報量を増やす

司会:デジタル化に加えてペーパレス、情報共有など、今ホットになっているツールについて教えてください。

広瀬会長:製造工程の中では必ず図面に書かれた寸法を検査しますので、その精度と持続性を"見える化"して得意先に渡すと、お客さんが信用してくれます。しかしその反面、我々のノウハウを流してしまうことにもなるので難しさも感じています。見える化にもバランスがあって、全ては見せるべきではないと思っています。また先日の講演会で聞いた話によると、ある旅館の女将さんは、以前は経営に関する一つひとつのデータをExcelなどのソフトに入力していたけれど、最近はその全てを統合できるシステムを作ったそうです。それに比べると当社は少し遅れているので、これからは皆で活用できるデータは共有し、個々の持っているデータはそれぞれでというように、住み分けをしながら活用できれば良いと考えています。我々昭和の世代は、どうしても品物を作ることに熱中してしまう傾向があります。それは自身と対話をしながら行う内向きのことであり、業績などを外部にPRするという外向きの行為とは真逆になります。その両方を同じ人間が行うのには限界があると思います。大きい会社であれば部署ごとで対応できますが、工連全体として見れば従業員が5人足らずのところが多いため、どこまで一人の人間にデジタル化を任せるかについては多くの会社が頭を悩ませているようです。

尾針さん:弊社も、今のお話に出た旅館と同じ「Salesforce」という顧客管理ツールを使っています。Salesforceでは使い方大会のようなものが毎年定期的に行われており、そこから学び合えるのもメリットになっています。そこに着想を得て、デジタルツールの情報交換ができるグループを作りました。それが、"寄り添い合い"頭文字を取った「YSAi」です。例えば経理などのバックオフィスは、異業種であっても似ている部分があると思います。YSAiはそうした情報を共有することが目的で、個社が調べたことを他社に教えてあげることによって、10社が10社バラバラに探すよりも、皆の情報を持ち合うことで10倍の情報量を得ることができています。

デジタルツールで信頼を確保

司会:人材育成として、社員が自らデジタル化に対応できるようなことにも取り組んでおられるのでしょうか。また、デジタル化して良かったことがありましたら教えてください。

國廣さん:最近、社員教育の一環として、Webサイトなどをプログラミングなしで開発できる「ノーコードツール」と、ITシステムの運用管理を自動化する「RPA」というツールを取り入れました。これまで紙面上で行っていた作業を様々なITツールデータに置き換え、それらをロボットを活用してデータを自動的に有効活用し、効率化することの楽しさを学んで欲しかったからです。弊社は現在、一品ずつ行うような検査の細かい情報は作業者が紙に書いて印刷しており、それをデジタル化して品証が扱うまでには至っていません。でも、製造現場のスタッフには全員タブレットを渡してありますので、ノーコードツールで作ったシートに自分の名前や検査に必要な情報を入力していけば、自動的にデータが吸い込まれてデータベースを作ることができるんです。それによってお客様からの信頼が向上し、いつ何があってもトレースできるような状態にしておくこともできます。そのため、今は若手の社員にノーコードツールとRPAを理解してもらい、自分たちの業務の中で実用化できるような取り組みをしてもらっています。今後、各部署で一人でも実現できるようになれば、全てのRPA化業務を外注するよりも安価にIT化できると考えています。

広瀬会長:弊社が行っている研磨は、μ単位になると機械などの条件次第ですぐに寸法を外してしまうことがあります。そのため測ったものがWi-Fiでパソコンに落とし込めるツールを使用しているのですが、Wi-Fiがうまくつながらないと結局全部やり直しになります。それでも一進一退で繰り返し行うことで測定システムが安定すると、結果として得意先から「御社の製品は受入れで測らなくても良いですね」と信用してもらうことができ、こちらからアピールしなくても弊社を選んでもらえるようになっていました。でも、今まではそれで良くても、これからは尾針さんや波田野さんも言われていたようにDX化を進め、自社の強みを積極的にPRしていくことが大切だと思っています。

ITとアナログの併用が理想的?!

司会:社内コミュニケーションの面ではどのようにデジタルツールを活用していますか。

波田野さん:話題ごとに部屋を分けられる無料のチャットツール「Slack」を使っています。ところが、アーティストやクリエーターの方々もそうしたツールを使っているのかと思いきや、あまりIT化が進んでいないことが分かりました。そこで私の方から使い方やメリットを教えてあげると、普段の仕事では話せないような話題にも発展しました。例えば、週末に子どもと遊んだという雑談でも、その方の人間性の一面が見えて、お仕事もスムーズに運ぶことがあります。その一方で、図面をPCに保存して活用することを考えたのですが、作業の現場では紙にメモした方が煩雑ではないということがありました。ITも大事ですが、アナログの良い部分も残しながら上手く併用していくのが一番良いのではないかと思っています。

尾針さん:社内ではLINEの業務用版でカレンダーの共有とチャットを主に使っています。カレンダーを共有すればお客様ごとの納品予定日などが一目瞭然になりますし、チャットを活用すれば口下手な人でも上手にコミュニケーションがとれます。また、記録として残すこともできるので、指示したことをお互いに確認できるのもメリットに感じています。

サイバーセキュリティ対策に力を

司会:サイバーセキュリティについては、どのような対策や考えをお持ちですか。

広瀬会長:工連として見ると、各社にセキュリティに対する認知度の差があり、なかなか広がりません。冒頭でもお話ししたように、セキュリティ対策がしっかりしていないと色々なノウハウが盗まれてしまう場合があります。先日も医療機関で情報が外部に流出してしまい、医療行為ができなくなるということがありました。我々も同様、営業活動や製造活動に影響を及ぼすことがあるので気を付けなければなりません。現状では、セキュリティ対策を個々で事務機器会社などに依頼されていることが多いようですが、工連では推奨する企業で一括して一定のレベルまで上げてもらい、そこから先は会社ごとで行っていただくことを活動の指針にして取り組んでいますので、ぜひ検討していただければと思います。

尾針さん:弊社は複数のセキュリティ機能を一元化させた「UTM」を導入しているので、サイバー攻撃は遮断しているはずなのにメールがダウンしてしまいました。その理由は、単純に迷惑メールを大量に送り付けられたからでした。サイバーセキュリティは素人には難しいので、例えば組合ごとに詳しい人材を確保していただいて、困った時にすぐ相談できる環境を作っていただくと我々も安心してIT化に取り組めると思います。

広瀬会長:工連でもUTM機器の設置など、万一トラブルがあった時にもセキュリティ担当が対応できるところまでメーカーさんと交渉しています。

國廣さん:それは有難いですね。やはり一社でやると経済的な負担が大きいので、I-OTAでもセキュリティツールを皆で共同購入できたり、有識者や士業の人たちに低料金で相談できる仕組みができたら良いと考えています。

無意識にDX化されていることも

司会:ところで、本日のお題はD(デジタル化)ではなく、それにX(トランスフォーメーション)が付いた「DX」です。単純にデジタル化で業務を効率化させるだけでなく、企業変革やビジネスを新しく生み出すといったことも含めて、展望やご意見をお聞かせください。

國廣さん:例えば波田野さんが手がけた溶接をもう少しデジタル化させて「このデータがあればできる」というようにすれば、波田野さんのパート2や3を育てて、アフリカに支店を作るといったことも可能になるのではないでしょうか。そういうところにビジネスチャンスはあるのかなと思っています。また、職人は皆、腕がある、経験がある、背中を見て技術を覚えれば良いなどと言いますが、やはり自分でやってみなければ分からないと思うんです。そうした時に、ITを使ってある程度のところまで数値化することができれば、技術を1から覚えなくても良いし、習熟度も早いと思います。我々は製造業をしているからこそ、ITを駆使して生産性を向上させるビジネスをするべきなのかなと思います。

波田野さん:溶接工場で働いていた頃から、技術の伝承はとても難しいと感じていました。ですから、自分一人の技量で付加価値を最大限に発揮すれば、やがて業界全体の盛り上がりにつながると考えていたのですが、國廣さんのお話を聞いて、教育にITを上手く取り入れることで新しいビジネスチャンスが生まれるということに気づきました。とても勉強になりました。

広瀬会長:うちはまだ、意外とアナログなんですが、ITを使えば良いことや、その重要性は理解しています。そして皆さんのお話にもあったように、一つひとつではなく、全体的につなげると相当大きなメリットがあると感じています。

尾針さん:広瀬さんは謙遜してそうおっしゃいますが、検査の部分を見える化することで、お客さんから「検査証はいらない」と言われているということは、すでにDXをされているのではないかと思いました。また波田野さんも、ご自身の溶接加工の良いところをどんどん発信されていらっしゃいますので、それが大きな価値になっていると思います。

司会:意識はしていないけれども企業価値向上のためにデジタル技術を効果的に活用されていると私も感じました。我々も今後、区内企業の皆様のDX化のご支援を積極的に取り組んでいきたいと思います。大田区では、大田区産業振興協会、区内企業と連携して、デジタル受発注のプラットフォームを構築していますので、こちらも是非ご活用ください。本日はありがとうございました。

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