2018年12月04日 公開

町工場における事業承継~円滑な事業承継を実現するためには~

製造事業所の減少が止まらない。中小企業庁の調査(※)によると、中小企業の経営者の平均引退年齢は67歳~70歳。多くの中小企業の経営者は引退のタイミングで事業承継を迎えるとみられる。一般的に事業承継は10年ほどかかると言われる中で、いつ、誰に事業承継するかは、経営者にとって大きな課題である。円滑な事業承継を行うために必要なことは何か。大田区企業の先行事例をレポートする。

千葉工場内
千葉工場内

志村精機製作所(大田区東馬込)は、創業50年以上の歴史ある町工場である。高精度の機械加工や小型の精密部品を得意としており、OA機器、光学機器、医療機器及び自動車部品等多種多様な受注に対応している。高度な技術力と厳密な品質管理、新製品開発のための絶え間ないチャレンジの結果、現在、千葉工場を含め従業員は60名、大手企業20社と取引を行う企業になった。この志村精機製作所を率いるのは、今年で社長歴30年となる志村政彦社長(以下、志村社長)である。

ゼロからの事業承継

手がけた部品の数々
手がけた部品の数々

先代社長が急病で亡くなり、志村社長は37歳で会社を継ぐことになった。急な社長就任であったため引継ぎがなく、現場を離れることもできず休日返上での仕事が当たり前というスタートだった。兄弟で力を合わせることでこの難局を乗り切り、4~5年でようやく社長業ができるようになった。東京都や協会の展示会出展補助制度等を活用し、新たな受注を獲得することに努めた。結果、10年前から千葉工場も分業体制から徐々に多能工育成へ転換する等、人材育成にも力を入れ始め、仕事が軌道に乗り始めたことを実感されたそうだ。「創業当時の家内工業からスタートし、ここまで成長できたのは親族や従業員の支えがあったからです。(志村社長)」

経営者交替のための環境づくり

志村哲夫氏(左)と志村社長(右)
志村哲夫氏(左)と志村社長(右)

事業承継は一人ではできない。支えてくれる仲間や従業員が必要となる。志村社長は、4~5年前から社員や協力企業に向けて、「息子の哲央へ事業承継を行う」と宣言した。「宣言することにより本人をはじめ、周囲が経営者交代について意識するようになると思いました(志村社長)。」次期後継者となるのは、平成28年度「大田の工匠 Next Generation」を受賞された志村哲央氏(以下、哲央氏)である。取締役兼本社工場長として部下の育成や各工場間のパイプ役等マネジメントの役割を担っている。

「事業承継に抵抗はなかったのですが、社長、専務、常務が会社を支えてこられたので、リスペクトすることはたくさんあり、自分の中では3人の存在が大きいです。週に何回かは千葉工場で働き、従業員との交流を図り、新規顧客との打合せにも同行することより、社内外に後継者として認められるようになりました。同時に、2年前から外部の事業承継塾にも参加し、経営者になるために必要な基礎知識を学ぶ等、準備を進めてきました。私と同年代の専務の息子が社内におり、相談相手となってくれるのも心強いです(哲央氏)。」

同社は来年1月に経営者交代を行う予定である。間近に迫った事業承継について、哲央氏は抱負を語った。「自分の代でしかできない仕事もあると思っています。役員と協力しながら、大きく変えるよりも少しずつ変えていきたい。まずは自分が頑張って手本を見せ、従業員と一緒に頑張っていきます(哲央氏)。」

政府は2018年度の税制改正で、非上場企業の株式をオーナー経営者から後継者に引き継ぐ時に、相続税を全額猶予できるようにし、更に、来年度は個人事業主に対しても相続税を軽減する方向で検討している。大田区では、去る11月13日に「事業承継セミナー」を行った。協会では、ビジネスサポートサービス(専門家派遣)の一環で、事業承継に関する相談も常時受付けている。これから事業承継をご検討の皆さま、上記の税制に併せ、協会の相談窓口も是非ご活用ください。

※参照・参考
中小企業庁委託調査「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」(2015年12月、(株)帝国データバンク)

2018.12.4


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