革新的生産技術に主婦の技 ~着易いパワーアシストスーツの製品化を目指して~

鈴森康一教授と小黒めぐみさん

東工大・理工学研究科の鈴森康一教授は、民間企業と共同で人工筋肉の量産に成功。人工筋肉により人間に近い自然な動きで骨格を動かすロボットなど、応用分野の研究を進めている。パワーアシストスーツは、人工筋肉を編み込んだ「動く布地」で服をつくり、着易く人が喜ぶロボティクス技術として開発を進めている。平成26年4月には国の開発補助事業「SIP/革新的設計生産技術」に研究開発テーマが採択され、大田区産業振興協会とともに具現化に向けて動き出した。

しかし平成27年2月、鈴森教授は人工筋肉の織布化に頭を悩ますこととなる。人工筋肉がバラバラにならないように横糸で編み込むのだが、研究室の学生は男子ばかりで裁縫はできないし、織布も作った経験がない。「誰か、裁縫や編み物の上手な人に協力してもらえないだろうか?」鈴森教授は、編み物を得意とする人物を公募することにした。ここで協力者として採用されたのが小黒めぐみさんだ。

めぐみさんが作成した織布のサンプル

めぐみさんは縫製の学校を卒業しており、現在は4人の子供を抱える主婦だ。一番下の子が幼稚園へ通う間に様々な仕事をこなす。協会の内職相談事業に求職者として登録しており、縫製を得意とする内職登録者の誰もが断った案件を「私の技術でご満足いただけるなら、仕事を引き受けます」と引き受けたこともある。内職相談員は強く印象に残っていためぐみさんに、東工大の公募情報を紹介した。

みごとに採用されためぐみさんは、週二回、東工大の鈴森研究室に通い、鈴森教授や学生とディスカッションしながら織布のサンプルを作成している。縦糸となる人工筋肉を毛糸の横糸で密に編んでしまうと、動きが悪くなってしまう。サンプルを作成しては動きを試験し、最適な編み方を模索する。めぐみさんの「横糸を毛糸でなくゴムひもにしてみたら」という提案が採用され、他にもななめの編み方などがテストされた。男子学生には到底思いつかない内容を提案し、実行する。日本の産業界を変える革新的生産技術に主婦の技が光る。鈴森教授は「小黒さんには、こちらの意図を汲んでいただきながらサンプルの作成をお願いしています。外注形式では相談しながら進めることができないので、非常に助かっています」という。

いま、パワーアシストスーツの開発で想定している一つの応用は、果樹園など手を高い位置で保ち続けるようなつらい姿勢のサポートだ。服の形をしているパワーアシストスーツでは、着やすさを保ちながら、人工筋肉の力をどうやって人間の身体に伝えるかが難しい。子育て経験のあるめぐみさんは、「先生、抱っこひもは負担があまりかからないのにしっかり固定する構造のものがありますよ。それを人工筋肉で作れたらいいのではないでしょうか」といい、鈴森教授が「是非やりましょう。そのような生活者の視点で製品を開発するのは大切なことです」と答える。

子育て中の主婦が外に出て働くのは大変な決意だ。そして普通の主婦が日本の技術の最先端研究に関わるということも相当なプレッシャーであろう。教授と主婦がフランクなやり取りができるのは、めぐみさんの持つやわらかい雰囲気のためだろう。女性の活躍が言われて久しいが、自分の持つ技術を生かして働く姿はとても素敵だ。

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