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- > 「共創で進める医療機器開発」― アットドウス株式会社 × 有限会社安久工機の挑戦
医療機器の開発は、革新的な技術だけで実現できるとは限りません。
多様な知見や現場で培われた経験、そして異なる分野の企業同士の協力が、ときに必要となるからです。前編では、大田区のスタートアップ企業であるアットドウス株式会社 代表取締役 中村氏と、試作開発を手がける有限会社安久工機 代表取締役社長 田中氏にお話を伺いました。取材を通じて見えてきたのは、異業種の2社が「ともに考え、挑戦する」という形で医療機器開発に取り組む姿です。技術と現場の知見が交差する現場で生まれる、新しい協業のかたちに迫ります。

―御社が取り組んでいる技術と、その背景について教えてください。
中村
アットドウスは、液体を超微量に強い力で正確に吸引・吐出できる独自技術「電気浸透流ポンプ(以下、EOポンプ)」を基盤に、医療分野への応用を進めています。
この技術は従来のポンプ技術とは異なるアプローチを可能にし、医療現場に新しい選択肢をもたらす可能性があります。
一方で、研究段階の技術を医療機器として社会実装するには、多くの課題があります。
私たちは、研究や技術には強みがありましたが、製造業としての実務経験は十分とは言えませんでした。医療機器として形にするには、ものづくり現場の知見が欠かせませんその課題を補完してくれたのが、安久工機です。

―御社が取り組んでいる技術と、その背景について教えてください。
中村
EOポンプは手のひらサイズの超小型のポンプです。コア技術はポンプの中心に位置する多孔質のセラミックで、この部品に当社のノウハウが詰まっています。また、全体をシリコンゴムで囲い、ゴム電極で電流を制御することで、安く少ない部品点数で容易に製造ができます。セラミックは焼き固めることでサイズにばらつきが発生しますが、当社の構造であれば、そのばらつきを吸収できます。そのため、歩留まり良く製造することが可能であり、当社の基本特許となっています。
このEOポンプを用いることで、従来のポンプでは難しかった微量投薬や安定した長時間の持続制御が可能です。ポンプの力が強いため、細い針、長い針、粘性の高い薬液など、従来技術では困難な応用領域に対応でき、今後、医療現場で求められる様々な医療機器への応用に適しています。

―お二人が出会った時のお話を聞かせてください。
田中
羽田イノベーションシティにある「PiO PARK」※1で開催されたセミナーで、初めてお会いしました。私はパネリストとして登壇していたのですが、セミナー終了後に参加者だった中村さんから声をかけていただいたのがきっかけです。
中村
正直なところ、最初は安久工機さんの業務内容を細かく理解していたわけではありません。ただ、『共に創りたい』という直感で声をかけました。
田中
技術の細かい部分以上に、医療分野に本気で挑戦しようとしている覚悟が伝わってきました。スタートアップ特有のスピード感や柔軟さも魅力でしたね。
―PiO PARKでのイベントでの出会いが、次第に共同開発と発展していったのですね。
―異業種の2社が連携して開発に取り組む中で、どのような進め方をされたのでしょうか。
田中
一般的な製造業の開発では、発注側と受注側の役割が明確に分かれます。
しかし、今回の両社の取り組みでは、最初から仕様や役割を完全に決めるのではなく、ある程度の柔軟性を持たせた状態でプロジェクトを進めました。
開発の状況に応じて、どの工程を誰が担うのか、設計の責任範囲をどこまでとするのか、そして技術的な課題をどのように解決するのかといった点について、その都度対話を重ねながら調整していきました。
中村
一般的な委託開発とは違い、役割を固定せずに進めました。開発状況に応じて柔軟に担当を変えられるのでスピードを落とさずに対応することができました。
田中
もちろん、責任範囲のすり合わせは常に必要です。ただ、その分、成果物に対する納得感は大きいですね。単なる受発注ではなく、「一緒に作っている」という感覚があります。

―共同で取り組むことで、どのような変化がありましたか。
中村
体感では試作スピードが約10倍になりました。単独で進めていたら、試作と検証に膨大な時間がかかっていたと思います。安久工機さんと共創することで、設計段階から実現可能性を踏まえた議論ができるようになり、「設計 → 試作 → フィードバック → 改良」という開発サイクルが圧倒的に速くなりました。
当社は創業後、自らが医療機器の登録が可能となる第1種医療機器製造販売業の許認可を得ています。医療機器の製造販売業を持つ企業と製造業がタッグを組むことで、ものづくり技術の医療機器への応用という行政の政策とも合致しています。その結果、助成金や補助金を活用することができ、開発費の確保にもつながっています。
田中
こうした取り組みの中で、安久工機は試作の支援や設計面でのアドバイス、技術的なフォローに加え、助成金・補助金の活用支援など、多面的な形で開発を後押ししてきました。
―この協業によって、組織や文化にどのような影響がありましたか。
中村
アットドウスと安久工機の協業は、単に技術面での成果を生むだけでなく、両社の組織文化にも変化をもたらしました。開発現場では、互いに率直に意見を出し合い、課題を共有しながら解決策を模索する姿勢が自然に根付いていきました。
委託関係ではなく、共に挑戦している感覚があります。信頼関係があるからこそ、率直な議論ができるのです。
田中
国内製造業の技術を次世代へつなぐという意味でも、非常に意義のある取り組みです。

―こうした協業の中で、特に意識してきたことは何ですか。
田中
安久工機は少人数体制で複数案件を抱えており、人的リソースの確保が今後の重要テーマです。共同開発ゆえに役割調整や責任範囲の明確化も課題となります。
それでも両社が共通して語るのは、シンプルな言葉です。
「最初から完璧でなくていい。まず一緒にやると決めること」
曖昧さを恐れず対話を重ねることで、技術も組織も成長します。
この協業は医療機器開発の新しいモデルとして、次の段階へ進もうとしています。
そして、その拠点となりつつあるのが、大田区に生まれたある場所です。
―前編では、異業種のお二人の出会いと、協業を通じて生まれた変化や影響についてご紹介しました。後編では、両社の協業を支える大田区の新しい拠点についてお伝えします。
※1 PiO PARKとは:羽田エリアに位置する産業交流拠点「PiO PARK」。企業やスタートアップの交流・連携を促し、新産業やイノベーション創出を支援します。
アットドウス株式会社
設立 2017年9月1日
住所 東京都大田区下丸子2-26-13 ヤスラボ1階
ウェブサイト:https://atdose.com/

有限会社安久工機
設立 1969年8月
住所 本社 〒146-0092 東京都大田区下丸子2-25-4
ヤスラボ 〒146-0092 東京都大田区下丸子2-26-13
ウェブサイト:https://www.yasuhisa.co.jp/
