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畳やイグサといった日本の伝統素材を、独自の手法で現代に編み直す「TATAMI ReFAb Project」。このプロジェクトを手がけるのが、株式会社HONOKA.labです。環境への配慮が世界的に求められるなか、廃材を活用したサステナブルなものづくりを通して、文化や歴史を未来へつなぐスタートアップ企業として注目を集めています。今回は、共同代表の横山氏にお話を伺いました。

―起業に至った経緯を教えてください。
日本大学藝術学部デザイン学科を卒業後、助手として3Dプリントのテクスチャー開発に取り組んでいました。研究を続けるなかで、技術としての差別化に課題を感じていた頃、オランダで廃棄野菜や海藻の残渣(ざんさ)を樹脂に混ぜて活用する研究があることを知りました。
「日本でも、廃材を活かした新しいものづくりができるのではないか」と考えていた矢先、当時住んでいた自宅の目の前にあった畳屋で、大量の使われなくなった畳が廃棄されている光景を目にしました。畳はリサイクルが難しく、多くが処分されている現状に問題意識を持ち、廃材活用の可能性を考えるようになりました。そこから、「畳を樹脂に混ぜる」というアイデアが生まれました。
畳のアップサイクルの取り組み自体は以前からありましたが、そこに素材や製造方法の開発と組み合わせることで、伝統素材に新たな価値を与えられるのではないか—その発想がHONOKA.lab設立の原点です。
―起業よりも研究開発が先だったのですね。
研究開発から、どのように起業へとつながったのでしょうか。
畳樹脂の素材開発を発表する場を探していた際、大学時代の同級生である原田(現共同代表)に相談しました。原田から、デザイン分野における登竜門かつ最高峰の舞台とされ、イタリア・ミラノで開催される世界最大級の家具・インテリア・デザイン国際家具見本市「ミラノサローネ」への出展の提案受け、参加を決意しました。
家具制作にあたっては大型3Dプリンタに着目し、豊島区のスタートアップ企業・株式会社ExtraBold様の協力を得て制作を進めた結果、開発した畳樹脂で家具をつくれることが分かりました。この取り組みを通じて仲間が集まり、2年前にデザイナー5名で株式会社HONOKA.labを立ち上げました。
―「TATAMI ReFAb Project」について教えてください。
3Dプリント技術を使用して、畳を現代の生活にアップデートさせるプロジェクトです。使い終えた畳や廃棄される原料を生分解性樹脂と混ぜ合わせ、新たな価値をもつ家具を制作し、畳の魅力を発信しています。
開発した「畳樹脂」を用い、3Dプリンタで、畳を編み直すような発想のもとプロダクトを成形しています。素材自体はプラスチックですが、透明感があり、ガラスのような質感が特徴です。現代的なプロダクトでありながら、どこか日本の文化や歴史を感じさせる仕上がりとなっています。
代表的なプロダクトには、テーブルやイス、ランプシェードなどがあり、ミラノサローネの展示会内で開催された35歳以下のデザイナーを対象としたサテリテアワードでは、グランプリを受賞しました。さらに、現地でのご縁をきっかけに、大阪・関西万博のイタリア館での展示も実現しました。




―開発において、特に苦労された点はどこでしょうか。
一番は「色味」の再現ですね。イグサ本来の色は乾燥すると茶色に変化するため、狙い通りの鮮やかな緑色に調整するための配合には非常に苦労しました。さらに、同じ形状のプロダクトでもその日の気温・湿度によって造形の品質が変わるため、量産品でありながら、1点物のような味わいが生まれます。現在は、イグサの香りをどこまでプロダクトに残せるのか、加工できる業者を探しながら研究をしています。

―なぜ大田区に拠点を置いたのでしょうか。
手作業による試作も多いため、工房として使える作業スペースが必要でした。そうした中、大学の後輩を通じて創業支援施設「六郷BASE」の存在を知りました。樹脂の形成に欠かせない、金型や金属加工を得意とする町工場が身近にあることが大きな決め手となり、入居をしました。ここには様ざまなスタートアップ企業が入居しており、他社とのコラボレーションにもつながっています。また、羽田空港が近いため、海外への荷物の発送や移動も非常に便利です。
―当協会が主催する「Meet New Solution」にも出展していただきましたね。
出展されていかがでしたか。
今後の協業先や、金属加工の発注先となる大田区の企業とのつながりを求めて参加しました。隣のブースの加工業者さんと情報交換をしたり、スタートアップ支援の方とつながったりと、参加して本当に良かったです。六郷BASEが実施している京浜島ツアーに参加するなど、大田区企業について日頃から積極的に情報収集を行っています。また、大田区産業振興協会を通じて紹介していただいた企業とも出会うことができ、プロダクト製作の可能性が広がっています。
―令和7年度東京都ベンチャー技術大賞で優秀賞を受賞されたそうですね。
受賞されて率直なお気持ちを教えてください。
法人化してまだ2期目というタイミングでこのような賞をいただき、大変光栄です。受賞のおかげで認知度が高まっただけでなく、デザイナーのみの組織でありながら、経営や事業面においても確かな評価をいただけたことは大きな自信になりました。

―今後の展望を教えてください。
「材料開発」「プロダクトデザイン」「プロモーション」「社会実装」の4つの軸を回していきたいと考えています。なかでも、企業の皆さまと連携し、廃材をアップサイクルして社会に戻していく「社会実装」には特に注力したいですね。
「文化の持続性を考える」というビジョンのもと、廃材を現代のプロダクトへと生まれ変わらせることで、日本の文化や歴史をどのように次世代へつなぎ、世界へ発信していけるのか、これからも模索し続けていきます。
―ありがとうございました。
取材を通じて、横山さんが常にアンテナを高く張り巡らせている姿勢に感銘を受けました。その姿勢があるからこそ、研究が社会実装へと発展したり、イタリアでの展示が大阪万博への出展へとつながったりと、目の前のご縁を着実に形にしていく力が生まれているのだと感じました。既に、畳以外の素材を対象としたアップサイクルプロジェクトも始まっているとのことです。勢いのある大田区のスタートアップ企業の一社として、今後のさらなる活躍が楽しみです。
株式会社HONOKA.lab
設立:2024年3月
住所:東京都大田区南六郷3-10-16 六郷BASE
ウェブサイト:https://honoka-lab.jp
