大田区産業振興協会
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〝好き〟を生かすものづくり
—溶接×デザインで唯一無二の価値創出
ハタノ製作所・波田野哲二代表に聞く

 「実は私、溶接が好きではないんです」。〝溶接×デザイン〟という新領域を切り開いているハタノ製作所の波田野哲二代表は、意外にもそう口にする。「好きで始めた仕事ではない」からこそ、ほかの誰にも負けない個性を持たなければならない。その思いで見つけたのが、自らの〝好き〟を溶接に掛け合わせ、新たな価値を生み出す「溶接×デザイン」だった。区内小学校で行う出前授業でもこの原体験を子供たちに伝え、「つくること」の魅力を発信している。ねじに溶接を施してつくるフィギュア『ネジマル』をはじめ、唯一無二のアイデアで溶接の可能性を拡張し続けている波田野氏に、独自の製作スタイルを確立するまでの歩みと、その経験を次世代に伝える活動について聞いた。

波田野代表

出発点はクリエイターとの出会い

 都内の工業高校卒業後、サラリーマンを経て2010年、父親が営む区内の溶接会社に入社した波田野氏。幼いころから〝溶接〟が身近にあっただけに、心のどこかで「将来は溶接に携わっている」という予感があった。その思いとは裏腹に、溶接という仕事に対する課題意識も持っていた。子供のときから、景気に左右されやすい町工場の事業環境を目にし、「これまでのやり方ではいけない。もっとほかのことをやっていかなければならないのではないか」と感じていたという。

 こうした中、2012年に初開催された『おおたオープンファクトリー』が、現在の製作スタイルを確立するきっかけの場となる。地域に向けて工場を開放し、大田の技を知ってもらうこのイベントには、地域で活動するデザイナーやアーティスト、建築家も参画していた。まちに密着して活動する姿を見て、「住む世界が違う」と感じていたクリエイターたちが、「身近な存在に感じられた」と回顧する。そこから、そのクリエイターたちとの交流が始まっていく。

「溶接」と「デザイン」がリンクする予感

 幼少期から絵を描くことや、レゴブロックを使ったものづくりが好きだったことから、デザインを生業とするクリエイター集団とのコミュニケーションは率直に「楽しかった」。次第にアーティストや建築家からの製作依頼も舞い込み始める。その過程では、溶接業界の常識とデザイナーらの常識が異なることを発見。対話を重ね、互いの認識をすり合わせていくうちに、「溶接」と「デザイン」が「結び付き始める感覚があった」という。同時に、子供の頃あこがれていた漫画家やゲームクリエイターといったクリエイティブな仕事が、溶接という枠組みの中であってもかなえられるという確信を持ち始める。さらに、クリエイターたちとの交流で見つけた「溶接×デザイン」が、自らの持ち味になる兆しを感じていた。

 その〝持ち味〟を確かなものとするためには、技術力も欠かせない。そうした思いを強くし、父親の指導を仰ぎながら、着実に*ティグ溶接の技術を磨いていく。現在では、溶接痕の美しさに定評があるほど、卓越した技術を身に着けた。

*ティグ溶接:電極部分の「タングステン(最も融点の高い金属)」と、アーク放電を安定させるための「アルゴンガス(不活性ガス)」を用いる精密かつ高品質な溶接方法

ネジマルが教育プログラムの題材に

 この溶接技術とデザインが融合することで生まれたものの一つに、『ネジマル』がある。2020年に独立し、ハタノ製作所を立ち上げてから『ネジマル』を事業化。生きているような愛らしい姿から、ファンを増やし続けている。ANAとコラボレーションし、廃棄となる航空機部品をアップサイクルしてネジマルをつくる取り組みを行うなど、大手企業と同様の例が後を絶たない。

ネジマル

 このネジマルは、小学校の教育プログラムとしても使われている。波田野氏は区内小学校の特別講師として、数年前から5年生を教えているといい、「オリジナルネジマルを開発しよう」をテーマに、子供たちにものづくりの魅力を発信。ネジマルの販売に向け、5か月間にわたり、ネジマルのデザインだけでなく、パッケージや販売促進のポスター、チラシを含め、児童に考えてもらっている。「溶接箇所が増えると加工賃が上がり、販売価格も上がってしまう」といった、ものづくりにまつわる商売のイロハまで学べるようにし、現場のリアルをより身近に感じられる工夫も取り入れる。教育委員会主催の授業発表会では、来場した保護者や関係者に向けて児童が実際に販売する機会を設け、学びを実践へとつなげた。

 波田野氏は、「絵を描くのが得意な子、アイデアを出すのが得意な子、動物が好きな子など、みんなが活躍できる場がある。それぞれの得意分野を生かしてそれぞれの〝得意〟を発揮してもらいたい」と考えながら授業をしているといい、これは波田野氏の生き方にも通じる。

〝好き〟がほかにはない価値生む

 そして出前授業の最後の回では、子供たちに必ず伝えていることがある。「私は、溶接そのものが好きなわけではない。一方で、レゴや絵を描くことなど、ものをつくったりデザインしたりすることが好きだった。溶接に自分の好きな〝デザイン〟という分野を掛け合わせることで、『ネジマル』が生まれた。皆さんも、今、自分が好きだと思うことを覚えておいてほしい。将来、どんな仕事に就いたとしても、そこに自分の『好き』を組み合わせることで、ほかの誰もつくったことのない、素敵なものが生まれるはずだ」。そう授業を締めくくるという。

 確かな技術と〝好き〟を掛け合わせて新たな価値を生み出し続けている波田野氏。「溶接は好きではない」と繰り返しながらも、溶接の魅力を語るその眼には、隠し切れない熱が宿る。

企業情報

会社名:ハタノ製作所
設立:2020年
住所:東京都大田区下丸子2丁目26番13号(ヤスラボ内)
HP:https://hatanoworks.com/

 

 

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