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ペネトレーションテスト(疑似攻撃によるセキュリティ評価)の全自動化を実現するプロダクト「MUSHIKAGO」を開発・提供するPowder Keg Technologies株式会社。市場に出回る多くのサイバーセキュリティ製品が海外製である中、日本発のデファクトスタンダード製品を目指すスタートアップ企業です。今回は濱村CEOにお話しを伺いました。
―起業した経緯を教えてください。
大学卒業後、電力会社に勤務し、制御システムに関する業務に従事していました。東京2020オリンピック・パラリンピック開催が決定した時期には、インフラ企業としての立場からサイバーセキュリティに関するタスクフォースに参加し、セキュリティ分野への知識を深める機会を得ました。
サイバー攻撃の手法などを学ぶ中で、自らの知見を海外のカンファレンスで発表するようになり、個人としても積極的に参加していました。その過程で、NEDOの関係者の方から「法人であれば、研究開発費用の支援を受けられるかもしれない」とアドバイスを受け、事業化というよりは、むしろ学びや研究成果を広く発信したい、もっと研究開発を進めていきたいという想いから創業に至りました。
2021年に広島で法人を設立した当初は副業として活動していましたが、研究・開発をさらに進める中で事業化の見通しが立ち、2023年に株式会社化して本格的な事業展開をスタート。翌2024年に東京へ移転しました。実績のないスタートアップが資金調達を行うのは一般的に難しいですが、当社はメガバンクからの理解を得られたため、大きな前進につながりました。都内で大田区を選択したのは、空港へのアクセスの良さと、家賃が都心部よりも安価であったことが理由ですが、移転してみると様ざまなスタートアップ企業が立地しており大変刺激をうけています。また、当社にご来訪いただく取引先の方に蒲田ファンが多く、訪問後に食事やお酒を楽しめる点が喜ばれ、蒲田を選んでよかったと思っています。
―提供されているプロダクトの特徴はどのようなものですか。
「MUSHIKAGO」という独自の小型セキュリティデバイスを開発しています。ネットワークに接続されている各デバイスの情報(OSや稼働中のサービスなど)を把握し、セキュリティホールが存在する場合には、擬似的な攻撃を通じてリスクを可視化します。検査は自動化されており、短時間で結果をレポートとして提供可能です。これにより、設定ミスや脆弱性の見落としがないかを効率的に確認・検証し、セキュリティ対策の強化を支援する仕組みを提供します。
専用のデバイスを接続するだけで利用できるため、環境構築や設定変更なしで導入することができ、専門的な知見を有していなくても全自動でペネトレーションテストを実施できます。セキュリティを検証する類似製品の多くはSaaS(クラウド上にあるソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービス)ですが、ハードウェアで提供している企業は珍しいと思います。
―「MUSHIKAGO」を利用しているのはどのようなお客様ですか。
現在は主にSler(システムインテグレーター)経由で製造業や医療機関向けに導入されていますが、それ以外にも流通大手からの問い合わせがあるなど、幅広い業種から関心をいただいています。DXやIoTの進展に伴い、製造業を中心とした産業制御システムがITシステムと一層連携を強化していますが、その一方でサイバーセキュリティリスクも急激に増加しています。近年、サイバー攻撃による深刻な被害が相次ぎ、製造業では工場の停止、医療分野では電子カルテシステムの暗号化などが発生しています。これにより、企業のセキュリティ意識が一段と高まっています。
―苦労されている点はございますか。
開発には当然多くの苦労がありますが、それ以上に重要なのは、提供するプロダクトが実際に正常に動作するかどうかを検証することです。検証のために、お客様の製造現場と同様の環境を整えるのは非常に難しいですが、慎重にテストを行った上で提供する必要があります。できれば、検証をサポートしていただける協力企業がいれば助かります。
―アクセラレーションプログラムやピッチイベント、ビジネスコンテストで結果をだされていますね。
様ざまなスタートアップ企業向けイベントに参加してきました。これらは資金調達や認知度、信頼性の向上を目的とした取り組みですが、実際に結果を出したことで、多方面からお声がけいただくようになり、事業にも良い影響がでていると感じています。投資家とのネットワーキングや、事業会社との新たな接点を得る機会にもつながっています。ただし、これらに参加することが目的化しないよう、本業でしっかりと成果を出すことを常に意識しています。
―今後の目標について教えてください。
現在、サイバーセキュリティ分野においては、広く利用されている製品の多くが海外製であり、国産製品は非常に限られています。国際情勢が緊張する中、セキュリティインフラを海外製品に依存し続けることは、一定のリスクを伴うと認識しています。こうした状況を踏まえると、選択肢の一つとして「国産セキュリティ製品」を確保しておくことには、大きな意義があると考えています。そのため、私たちはまず国内での普及拡大を図りつつ、将来的には北米市場への展開も視野に入れて取り組んでいきたいと考えています。北米市場で成功することで、国内での信頼性向上にも繋がると考えています。
また、現在提供しているサービスはセキュリティリスクを検知し、問題点をレポートすることにとどまっていますが、今後は検知したリスクを自動的に解決するソリューションまで提供できるよう、開発を進めています。
世界的なIT調査・アドバイザリー企業であるガートナー社に取り上げられることは、大きな目標のひとつです。特に、ITベンダー選定の際に多くの企業が参考にする存在であるため、そこに掲載されることは大きな意味を持つと考えています。
かわいい虫が描かれた「MUSHIKAGO」が日本だけでなく世界のオフィスや工場を支える存在となる未来がとても楽しみです。スタートアップ企業として大田区にもよい刺激を与えてくれる存在でもあり、デバイスの筐体部分について、将来的には大田区の加工技術との融合が実現することも期待したいです。
Powder Keg Technologies株式会社
設立:2021年9月
住所:東京都大田区蒲田4-42-12 蒲田新生ビル201
ウェブサイト:https://powderkegtech.com/ja/