エコノミーを追求したらエコロジーだった
ものづくり中小企業のSDGs

大田区はSDGsの目標達成に向けて優れた取組みを提案する都市として、内閣府が進める「SDGs未来都市」に選定されるとともに、その中でも特に優れた先導的な取組みを行う「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれました。こうした中、トキワ精機株式会社(大田区大森東2-14-12)が開発した油圧配管用継手「まるみ君」が、エネルギーおよび環境に関する優れた技術開発と顕著な産業上の実績を表彰する岩谷直治記念財団の「岩谷直治記念賞」を受賞しました。今回の受賞を記念して木村社長にインタビューを行いました。

トキワ精機株式会社 代表取締役社長 木村洋一 氏

きっかけはコストダウン要請

トキワ精機株式会社は昭和7年に創業。昭和41年頃から油圧用配管継手の分野に進出し、専門メーカーとして約3000種類の商品を扱っています。

「まるみ君」の開発のきっかけは、取引先である大手産業機械メーカーからの値下げ要求でした。1990~2000年代にかけてグローバルな部品調達が加速し、中国・韓国をはじめとしたアジア各国の価格の安い製品が台頭してきました。その影響から当社にも価格を30%下げて欲しいといった途方もない要求がありました。

樹脂化やロストワックスなど様々な製法を検討しましたが、改めて継手を見つめ直してみると一番工数がかかるのが穴あけの工程なので、ここを省ければいい。その発想から試行錯誤の末に完成したのが「まるみ君」です。

「まるみ君」は継手の中でもエルボと呼ばれるL字型の継手です。従来品は鍛造により成形、ドリルで内径を穴あけ、外径もねじ切りなど多くの工程を要するので材料のロスが多く、元の材料からの歩留率は約36%という非常に効率の悪いものでした。

穴あけの工程を省くのであれば最初から穴があいている鋼管を加工すればいい。鋼材メーカーに相談してみると厚肉の鋼管も当社の求める仕様に合うものがつくれるという事が分かりました。パイプができるのであればあとは曲げてエルボを成形する方法を考えるだけ。ここから開発がスタートしました。

開発の難しさと他方面からの協力

厚肉管を歪みなく曲げる技術の確立は非常に困難でした。開発にあたっては実に多くの方々に協力してもらいました。今では考えられないことですが、鋼材メーカーには試作に必要な厚肉鋼管を無償で提供してもらいました。また、助成金の申請書作成のアドバイスや、特許取得については大田区産業振興協会のサポートを活用しました。

しかし、なんといっても一番力になってくれたのは大田区のものづくりのネットワーク。曲げる方法や型の設計・製作ではいくつもの企業に助けてもらいました。図面を持って相談に行き、こちらの目的・意図を説明するともっと良い提案をしてくれる。
「何をつくるかが明確になれば大田区につくれないものはない」
そう、実感しました。

こうして開発が進んでいって鍛造工程を省いた効率のよい製法を確立することができました。曲げ加工を行った後に最低限必要なねじ切り等の削り出しを行うことで、約76%という非常に高い材料歩留率を実現しました。また、寸法や角度が違うものでも型を共通化できるので、効率的な生産が可能です。

付随する様々なメリット

この製法は、材料歩留率の改善だけでなく、他にも多くのメリットがありました。従来品は穴あけ加工の際に中に細かいバリが発生します。この除去に非常に多くの時間と労力を要していましたが、「まるみ君」はもともと穴があいている厚肉管を加工するのでバリは全く出ず、工数を大幅に削減できるとともにコンタミ(異物混入)も解消され、品質も向上しました。

また、曲げ加工をすると多少つぶれがあるので油の流れに影響が出る恐れもありました。しかし、実際にはなだらかなR形状によって圧力損失を抑えることができ、従来品に比べエネルギー効率が10~20%近く向上しました。品質面に加え、耐圧試験・耐衝撃圧試験(JIS B2351)に合格するなど従来品をはるかに上回る製品が完成し、2001年から販売を開始しました。

エコノミーを追求したらエコロジーだった

先述の大手産業機械メーカーに「まるみ君」をプレゼンしてみると「この製品は環境にいい!」との評価を先方の役員からいただきました。確かにそう言われてみれば材料の歩留まりはいいし、加工工数が少ないので電力消費も劇的に下がるわけです。

すぐにLCA(ライフサイクルアセスメント)の評価を実施するため、わざわざ専任の担当者を1人派遣してくれました。電力消費から付随する部品調達の距離に至るまで環境負荷について詳細な測定が行われました。

その結果、二酸化炭素(CO2)21%削減のほか、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)および粒子状物質(PM)の排出係数についても軒並み20~30%削減されているという結果になりました。

今では会社の主力製品となり、2001年の販売開始から現在に至るまで約8,000万個、現在も月に約40万個を製造・販売しています。

まるみ君がきっかけで環境問題に関心を持つ

「まるみ君」の開発は環境問題について考えるきっかけになりました。環境に優しいことを突き詰めると、いかに物をつくらないかということになりますが、製造業である以上そういうわけにもいきません。持続可能なものづくりとは「より少ない資源とエネルギーでより多くの幸福を提供する」ことだと私は思います。

ゴミは分別ではなく減らす

物を作ればそれだけ廃棄物が出ることとなります。衣食住で考えてみても、食品ロスや衣類の廃棄、全国に増えつつある空き家など、物の供給は増え続けています。生産の動脈と静脈は同じ太さであるべきですが、生産の過剰により、ものは短命になり膨大な廃棄物が生まれています。ものづくりにおいては生産工程でできるだけゴミを出さない、そして有害物質を出さないことを意識することがものづくり企業の環境への責任だと考えています。

小さな循環こそ環境に優しい

小さな循環とは、工場の中で材料の運搬や製造が完結できるということ。「まるみ君」は、素材から完成品まで工場内での一貫生産が可能です。わずか5mという距離で製造工程が完結しています。遠方からトラックで輸送して材料を運んでくるとそれだけで環境へ負荷がかかります。距離の近いところでものづくりをした方が環境に優しい。この小さな循環という考え方から、新事業としてリユースカップ洗浄機を開発し、地域のイベント等での啓発活動にも取り組んでいます。

長年の実績を評価

今回の受賞で一番嬉しかったのは20年来の実績を評価していただいたことです。昨今のカーボンニュートラルに向けたCO2排出量〇〇%削減という取組みが数多く紹介されていますが、逆に考えてみればそれだけ今までCO2を排出し続けてきたとも言えるわけです。環境負荷軽減の効果が認められ、それを20年に渡って販売し環境に貢献している「まるみ君」がこうした評価をされる機会はなかったので、長年の苦労が報われる思いがしました。

これからも「まるみ君」から学んだことを活かし、持続可能なものづくりを意識した新しい事業をつくり、同時に成長し続けたいと考えています。

あとがき

今回の取材を通じて木村社長から、「つくる」「つかう」「いかす」「もどす」という循環による環境に優しい持続可能なものづくりという考え方を学びました。記事の中で出てくるリユースカップ洗浄機を用いた環境啓発活動の他にも、商店街の活性と持続可能な地域社会の創造するエコストリートプロジェクトや、まだ活用できる物と必要としている人が出会える仕組みを作りたいという構想まで、実に様々な話を聞くことができました。これらの根幹にあるのは、小さな循環こそ環境に優しいという木村社長の理念であり、生き方そのものではないかと思います。

企業情報

トキワ精機株式会社
設立:1932年9月
住所:大田区大森東2-14-12
ウェブサイト:https://tokiwaseiki.net/

 

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