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大田区千鳥。国道一号線と環状八号線の交差するすぐそばの地域、中規模のマンションや戸建てが立ち並びます。その中に建つアベテクノシステムの本社事業所は一見、オシャレなオフィスビルにしか見えません。しかし、実は最新鋭の設備が揃った工場でもあります。外から騒音などはまったく聞こえないため、通りがかっただけでそれに気づく人はいないでしょう。「最初のひとつを創る会社」を標榜する同社では、どんな人材が働いているのでしょうか。
当社は主に3つの事業を行っています。「試作部品の製作」、音響や映像の「システム開発」、電気・部品を合わせた「装置の製作」です。
私は二代目の経営者になるのですが、先代は樹脂を切削加工する会社として立ち上げました。今から50年以上前の話です。当時、切削加工といえば金属で、樹脂の切削を行う会社はほとんどありませんでした。理由は樹脂の切削加工の技術や環境がまだ整っておらず、非常に難しかったからです。
先代はそこに目をつけ、他社がやらない、できないことを実現できれば、ビジネスになると考えました。当初は絶縁素材用途のベークライトなどの加工を行いながら、お客様から装置の製作依頼などをいただくようになり、加工だけでなく装置・治具の製作を含めて事業を成長・拡大していったと先代から聞いています。
私が入社したのは約40年前なのですが、樹脂の加工へのニーズがどんどん増えていく時期でした。金型で製品を量産する前に、切削加工で試作品をつくるという生産工程が定着しはじめた頃です。
当時のラジカセやウォークマンを知っている方は分かると思いますが、あれはほとんど樹脂・プラスチック部品でできた製品です。あれらの製品が生まれ、改良が重ねられていく時代の中、それに対応するため現場で試行錯誤を繰り返していました。
当時はNC(数値制御)の工作機械などなく、技術者が汎用機で加工していました。工作機械で使用する刃物も、今でこそカタログで多種多様な製品が買えますが、当時は樹脂用の切削工具などない時代です。金属加工用の刃物を自分でグラインダーで研いで、樹脂を加工するための刃物を自作していました。
当社は「最初のひとつを創る会社」です。手掛ける製品はまだ世にないものがほとんど。ですので、自身の頭で考え、イメージし、実際にそれを形にすることが求められます。決まりきった仕事はないので、技術者を育成するのは簡単なことではありません。
ものづくりにはセンスも重要です。誰でも一流になれるとは限りません。しかし、当社は「ものづくりの町 大田区」で切磋琢磨し、日本のトップを目指す企業です。どこでもできるような仕事をしていてはいけないと思っています。技術者にとって甘い環境とは言えません。
─「ものづくりのセンス」とは具体的にどのようなものでしょうか。器用さのようなものですか。とても難しい質問ですね。恐らく、一番の条件は「ものづくりへの熱意」となると思います。器用さというのも難しいもので、器用な方というのは覚えるのは早いのですが、その分、他のことへの目移りも早いように思います。やはり工作が好き、プラモデルが好きなど、黙々と、そしてコツコツと自分の興味を追究していく人材が長期的に見て成長していきます。
当社の技術者には「金メダリスト」を目指してもらいたいと思っています。かけ声で言っていることではなく、気概の話でもありません。本当の意味での「日本一」を目指してもらうのです。もちろんこれはとても難しいことです。
─本気で日本一を目指すのは大変なことだと思います。どのように人材を育てるのでしょうか。たとえば水泳という競技においても、自由形・平泳ぎ・背泳ぎ・バタフライ、同じ水泳でも種目によってメダリストは異なりますよね。種目によってトレーニングや身体の鍛え方は異なるでしょうし、決勝戦までの戦略・戦術も変わるはずです。
ものづくりにおいても金メダルを目指すなら、同様に種目、専門を限定して技術を磨いていく必要があります。
ものづくりが得意、という漠然とした能力ではなく「5軸の加工機ならこの人が日本一」と言えるような技術者を目指すわけです。
─本人の希望や適正も考慮されるのでしょうか。はい。専門を限定していくと申し上げましたが、ひとつの技術だけを追求していくのもまた難しさがあります。熟練とともに本人の興味が広がるのは自然なことですし、幅広い経験、視野を手に入れることは成長につながります。ただ、幅を広げすぎるとスペシャリストの道は遠のきますし、金メダルは難しくなる。
─マニュアルや通り一遍の育成ではたどり着けない領域に見えます。金メダルを必ず取れる方法がないように、確実な正解はない世界です。だからこそ、私やベテランの社員は注意深く社員を見るようにしています。今現在、当社の社員数は約100名。まだ一人ひとりに目が届く距離感です。本人の才能や適性、意欲を見極めながら、方向性を示していきます。
一方で会社としては、個人の技術を追求するだけではいけないとも考えています。個人の突出した技術がいくつもあるのがアベテクノシステムですが、その突出した技術を「組織として」構築していくことが求められていると感じます。
組織として「金メダル」を目指せるような人事制度や育成制度を、今まさに整えているところです。たとえばデジタル・データを活用した評価制度などの構築にも取り掛かっています。今後はAIやDXなど、ものづくりや技術のあり方も変わっていくと思います。当然、我々もあり方を変えていかなければいけません。
私のような現場育ちの人間からすると、デジタルではできないこと、頼らないでやるべきことだと反射的に感じてしまう場面もありますが、そこで口を出していては会社は変わりません。私が知らないことを、若手が知っていることも多くあります。彼らからそれを引き出して、アウトプットしてもらうために、ぐっと我慢して、任せるようにしています。
技術・ノウハウを持っているベテランの暗黙知とデジタル・ネイティブな若手。彼らが融合することで、暗黙知の継承と発展、そしてさらに良いものづくりが実現できると考えています。
 
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