たどり着いた江戸前、根を張るハーブ。【後編】

プロフィール

江戸前ハーブ 代表  村田 好平 氏
大阪大学 外国語学部 卒

たどり着いたのは大田区の元・町工場

─なぜ東京だったんですか?

この取り組みは他にない、新しい取り組みになります。新しいものを受け入れてくれる、評価してくれる場所を考えると、東京が相応しいと考えました。また、淡路島で働いていた時も、高い野菜の販売先では東京が多かった。「高いものが売れるのは東京」という実感がありました。また、海外の例を見ても、トロントやパリ、シドニーなど成功事例はどこも大都市です。

また、ハーブは取った時が一番美味しいんです。収穫から食べてもらうまでの時間が短ければ短いほど良い。東京で収穫して、東京で食べてもらうことがハーブの評価にもつながると考えました。

─なんとなくではなく、勝算があって東京を選ばれたんですね。ただ、ご出身は兵庫県ですよね。東京には馴染みやツテはあったんですか?

それまで東京には2回しか来たことがなくて。小学校の時の修学旅行と友人に会いに来た時の数泊程度。ほとんど何も知らない土地でした。

なんとなく描いていた「渋谷や恵比寿で栽培、収穫してすぐ近隣のレストランに卸す」というイメージから、渋谷か恵比寿に場所を借りようと考えていたのですが、知り合いの経営者に相談したところ「そのあたりの家賃を知っているのか。採算が合うわけない。まずはできるだけ家賃をおさえて、1日も早く、1円でも利益を出せ」と一喝されて。

目が覚めたような気分になって不動産屋さんに「できるだけボロボロで、家賃の安い所を探しています」と相談に行きました。

何件か内覧に行ったのですが、この大田区の物件は運命を感じたというか。元々は半導体関連の製品をつくっていた町工場だったのですが、入口から入った瞬間、収穫するハーブが並んで見えたような感じがして。

物件の形が真四角で、賃料もそこそこ。ぼくが想定していた条件に完璧に合致していました。真四角は作業性の良さが期待できる。あと軒下のような空間があって、屋根がついていて、風よけの壁がある。種を蒔くのに最適な空間なんです。

内装はボロい所もありましたが「ボロい場所で最高級のハーブを育てる」というストーリーも面白いと感じました。

入居してからもすぐにハーブの生育に取り組めたわけではなく、最初の2ヶ月くらいはちゃんと使える形にするため、インパクトドライバー片手に修繕や工事を自分でやっていました。

同時にハーブの栽培試験もはじめました。ハーブや野菜の栽培は経験してきたものの、室内で育てるというのは初めて。納得いくものができるまでかなりの時間がかかりました。

─ハーブを育てるのはどのような要素が必要なんでしょうか。

「室温・湿度・風」という3つの要素に加えて、ハーブが育つためのエネルギー源、太陽と土にあたる「光(LED)」と「培養土」が要素となります。これらが複雑に絡み合って、ハーブが育ちます。

それぞれの要素を掛け合わせながら、ベストの環境を探求していたのですが、ある時「これだっ!」と言えるようなポイントを見つけることができました。環境を調整しながら、少しずつ収穫量や味を改善させていくという側面もありましたが、ある瞬間に一気に味が良くなる、ブレークスルーがありました。

─それだけの味を見つけ出すのはやはり簡単なことではなかったですよね。

そうですね。今言った味のブレークスルーがありましたが、私自身、心や意識のブレークスルーというのもその前にありました。

今は美味しいハーブをつくることができていますが、起業して、物件を借りたばかりの頃にはそんなものがつくれる保証はどこにもありません。

3か月くらいハーブの試作をしては、納得のいくものができなくて、捨てて、を繰り返していました。家賃を抑えているとはいえ、貯金はどんどん減っていきますし、精神的に追い詰められる時間が増えていって。

ある時、真夜中に泣きながら農園と向かいあっていた時がありました。もう一時間くらいそのまま動けなくなって。そこで本当にゼロになって、今やっていること、これまでやってきたことを思い返しました。

ふと思ったのが、梶谷さんの農園では水をあげているだけで、美味しい野菜は育った。 自分は美味しいハーブを「育てよう」と思いすぎているのかもしれない。自分がなにかを邪魔しているんだろうな、野菜の言うことを聞いてみよう、という気づきがありました。

これが心のブレークスルーでしたね。

ハーブがなりたいようになってもらおう。ハーブにとって根本的に必要なことをやろう。それが土壌改良だと気づいたんです。

それまでは市販の培養土を使っていましたが、培養土の自作・ブレンドをはじめました。手間がかかりすぎるので、通常の農園では行わないことです。

化学物質を使わない、有機物を使用した培養土を使うことで、それぞれのハーブのポテンシャルを発揮させていく。結果、味の凝縮感があるハーブがつくれるようにもなりました。

最高のハーブをつくった。では、どう売るか。

─美味しいハーブがようやくできて、次は「売る」になると思いますが、販路はどのように開拓されたんですか?

自分で納得いくものがつくれて、営業をはじめようと思いました。しかし、時期は2021年の9月、コロナ真っ只中で、想定顧客であるレストランはどこもやっていない状態でした。

ただ、一流の人に食べてもらえば、評価してもらえる自信はありました。

誰に食べてもらうかを考えた時に、真っ先に思いついたのが、青山のレストランの超有名シェフで「野菜料理の天才」と呼ばれている方です。その方はニューヨークで修行されていたので、多文化や新しいものを取り入れる気質も持っているだろうと踏んでいました。

もちろん、簡単に会える人ではありませんので、とにかくインパクトを与えたいと思って、台風の日を狙ってレストランに行きました。

─台風の日?

はい、外は大雨、外出する人は少なく、レストランも暇になる日です。その日は会えなくてもインパクトを残して、その後4回、5回と通えばいつか会ってもらえるだろうという目算はありました。

─レストランで働いていた方ならではの視点ですね。結果はいかがでしたか。

台風の中、実際にレストランを訪れて、そのシェフ指名で面会を求めました。幸運なことにその場で会ってもらうことができたので、ハーブを召し上がっていただきました。

─緊張する瞬間ですね。反応はいかがでしたか。

ぼくもびっくりしたのですが、ハーブを食べ出して30秒くらいで「これ美味しいね。採用」と決めていただきました。誇張ではなく本当に30秒でしたよ。

江戸前ハーブを「売る」という点では、この時の行動がブレークスルーになっています。

─すごいですね、一流の人は決断も早い。その後の営業も順調に進みましたか?

そのシェフからはご注文いただいものをちゃんと届けながら、他のレストランも10件くらい紹介していただいて。大きかったのが、大手の食品卸会社さんに繋いでもらえたことでした。

その卸会社もじつは大田区の近所にあったんです。紹介してもらった2日後くらいに担当の方が自転車で来てくれて。

江戸前ハーブを試しに食べてもらい、現状の売上が月に10万円くらいだと説明すると「月に100万円にするから、作ることに集中して」と言っていただきました。

私の方はそれに応ようと、そこで初めて人の採用を決め、2人を新たに雇って、3人体制で生産に注力しました。

卸会社の方が言っていた「月100万円」ですが、それどころではないほど受注は増えていきました。私は当時週7日、1日15時間くらい働いていたと思います。

「江戸前」の未来

─現在進行形で発展・成長している江戸前ハーブですが、今後の目標を教えてください。

売上的には年商1億円を今の目標としています。

ハーブの味はもとより、収穫量・生産性といったところを追求していきたい。それに加え、ハーブ以外の食材もつくりたいと考えていて、今アイデアを練っています。「江戸前シリーズ」として展開していくのも面白いかなと。

ただ、なにをつくるにしても味は最高のものにすることに変わりありません。

今は物が溢れている時代です。今さら「そこそこ」のものをつくってもどこからも求められないと思っています。

─最後に「江戸前ハーブ」という特徴的な名前についてお聞かせください。ネーミングにはどんな意味が込められているんですか。

この名前、じつはぼくが付けたものではなく、梶谷さんが命名してくれたんです。響きもキャッチーだし「東京」でやっていることが分かる。それにこだわりや「匠」といった生産者としてのプライドも伝わる感じがして。ぼくはとても気に入っています。

─ありがとうございました。


企業情報

江戸前ハーブ
創業:2021年8月
住所:大田区大森東5-36-5
ECサイト:https://goodfeels.thebase.in/

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