ゴミに "ストーリー" を。

SDGsやエコの意識の社会的関心が高まり、持続可能性のある製品に取り組む企業や、それを率先して購入する個人は増えています。それでも、天然資源や環境負荷のある製品に頼ることはまだまだ避けられません。大きなイノベーションが期待されている分野です。
そんな中「ゴミがそのまま材料になって、新たな製品をつくり出す」、というストーリーを描き、実践しているfabula株式会社の町田CEOにお話を伺いました。

fabula(ファーブラ)株式会社 代表取締役 CEO 町⽥ 紘太 氏

東京大学 工学部 社会基盤学科 卒
休日は趣味の散歩やピアノでリラックス&ストレス解消につとめている。散歩は20kmに及ぶこともある。街を歩いていると時に見かける風景や工事現場から気づきを得るなど「インフラを知っている人」ならではの散歩を楽しんでいる。

ゴミからコンクリートより強い素材をつくる

大田区の創業支援施設「六郷BASE」を拠点とするfabula株式会社。広々としたコワーキングスペースを抜けて、通されたのは利用者共用のミーティングルーム。壁も什器も綺麗で、広々とした部屋だ。

─本日はお時間をいただきありがとうございます。fabulaさんの概要を教えてください。

創業は2021年10月で、現在は私と一緒に創業したメンバー2人、合計3人の体制で事業を進めています。

創業メンバーは2人とも小学校の同級生です。高校や大学は別々でしたが、時々は会って一緒に旅行へ行ったり、飲みに行ったりするような仲でした。

大学の卒業後に起業したのですが、その前に色んな人に製品を見せたり相談に行ったりしていました。その時にメンバーの2人とも顔を合わせて話したのですが、CFOの松田は前職の仕事で駐在していた海外からちょうど帰国したタイミング、CCOの大石は転職を考えている時期でした。

仲が良かったというのもありますが、各々のタイミングも合っていて一緒に創業することを決めました。

─fabulaさんの事業・技術について教えてください。

私たちは食品廃棄物から新しい素材をつくる技術を有しています。コーヒーのかすやお茶殻、端物野菜などはゴミとなりますが、それらからコンクリートよりも強度のある建材やさまざまな用途の素材をつくることができます。たとえば⽩菜の廃棄物でつくった素材の曲げ強度はコンクリートの約4倍になります。

お茶の葉からつくったコースターやお皿、コーヒーかすからつくったゴルフのティーなどは商品化していて、主に自社のECサイトで販売しています。

─コンクリートよりも強いというのには驚きました。コーヒーかすや端物野菜をどのようにすればそんな素材になるんですか。

熱をかけながら圧縮する、いわゆるホットプレスで製作します。ホットプレス自体はさまざまな産業・製品で使われている技術ですので、それ自体は珍しくありません。イメージとして分かりやすいのは江の島で売っている「タコせんべい」ですね。シンプルに伝わりやすいのでこの例えはよく使います。

しかし、私たちの素材をつくるために必要なのはホットプレスの技術だけでなく、素材の「乾燥・粉砕・成型」という一連の技術・ノウハウが必要となります。これらを一貫してやろうとすると一気にハードルが上がります。それぞれの具体的なノウハウが当社の技術と言えますね。

─技術をどのようにして確立されたかをお聞かせください。

学生時代の専攻からお話しさせていただきます。大学の専攻は工学部の社会基盤学科で、主にコンクリートを扱う研究室に所属していました。コンクリートはリサイクル率は高いのですが、そのままコンクリートには生まれ変わりません。そのほとんどは品質の低下が伴うリサイクルで、具体的には道路に使われる材料などになります。ただ、これらの材料の需要も先行きは不透明で、いつまで続くか分かりません。

私はこの問題の解決・改善方法を主に研究していました。

研究室には、コンクリートの瓦礫や木材を混ぜたものを熱圧縮成形して再利用するという技術の基盤がすでにありました。

コンクリートをはじめ、天然資源はいつか必ず枯渇します。それでは廃棄物を活用できないか。なら食品の廃棄物はどうだろうか、といった流れで食品廃棄物を使用した研究を進めていました。

また、コンクリートは現代の建築には欠かせない材料ですが、冷たさの象徴のようなネガティブなイメージがついています。これを親しみが湧いたり、ポジティブなものにできないかとも考えていました。

─このような革新的な技術を見つけるのは相当な苦労があったのではないでしょうか。

こう言うのもなんですが、技術の確立は思いのほかすんなりと行きました。「プロジェクトX」的な苦労や困難などは少なく、むしろ楽しい時間も多かったです。オレンジの皮で試作するために、コストコに行って大量にオレンジを買ってきてお腹いっぱいになるまで食べたり(笑)。

「六郷BASE」を拠点にして

─拠点として大田区の「六郷BASE」を選んだのはどのような理由からですか。

元々は別の区に拠点を構えていたのですが、大田区の人とのつながりがあってこちら六郷BASEに移転しました。

大田区には高い技術力のある町工場がたくさんあるイメージでしたので、そことのコラボレーションなどの期待もありました。当社の素材に新しい価値や性能を付加してくれるようなアイデアや技術と出会えるのではないかと。実際にプレスをやっている工場を紹介してもらったこともあります。

また、アットホームな雰囲気も良いなと思っています。六郷BASEの取り組みとして、東京ビッグサイトでやっている展示会、「ギフト・ショー」に出展した時も反響が大きかったですね。他の入居者たちと一緒に参加したのですが、ブースには引っ切りなしにお客さんが来てくれましたし、そのギフト・ショーで我々の製品が「ベストサスティナビリティ賞」を受賞するなど、手ごたえのある出展でした。

ギフト・ショー出展時の様子。右から2番目がCFOの松田さん

ものづくりにはストーリーが必要

─御社のホームページにある「どんなゴミにもストーリーがある」という言葉がとても印象的でした。こちらに込めた思いなどを教えてください。

ものづくりにおいてストーリーがとても重要だと考えています。当社の社名fabulaもラテン語で「ストーリー」という意味です。

「動脈産業」※では基本的に最終消費者、たとえば農家であれば食べる人のことを常に考えますし、それを運送する人も届ける人のことを考えるはずです。そこには一貫したストーリーがあると思うんですね。

「静脈産業」においては、現状「リサイクル」「エコである」ということ自体に価値や評価があります。SDGsやエコへの関心の高まりから今後も注目されていく分野ですが、私はそこにストーリーを加えることでさらに活性化させていきたい。「エコだから買う」だけでなく「ストーリーに惹かれて買う」という方が増えれば持続性は高まっていくと思います。

─たしかに「エコ」というのは物を選ぶ基準のひとつになりますが、「欲しい」物であればエコを意識するまでもなく、選ぶようになりますね。1回買って終わり、ではなく生活に取り入れていくことができそうです。

私は自然に循環させることが大切だと考えています。

そのためには持続可能な製品であり、かつ機能や価格の優位性、そしてストーリーが必要になります。

我々も今はゴミを活用してものづくりをしていますが、そこだけに限定する必要はないと思っています。ゴミからつくることに執着して、必要なもの、価値のあるものをつくれなくなってしまうのは望むところではありません。

仮に食品を原料にして良いものがつくれたら、実現性が高いのではないかと考えています。たとえば、もやしは一週間で生育することができます。これを建材にすることができれば、数年~数十年の生育期間が必要な木を建材として使用する必要もなくなり、環境負荷もかなり低く抑えられます。

※「動脈産業・静脈産業」 経済活動を血液循環になぞらえた呼称。天然資源を加工して製品などを生産する産業は「動脈産業」。それ対し消費され廃棄物となったものを集め、それらの再加工・再販売などを通して、再び社会に流通させるのが「静脈産業」

具体的な戦略と、幅広いプラットフォームとしての広がり

─今後の事業展開やビジョンを教えてください。

2025年に開催される大阪万博において、ひとつのコーナーの「屋根」をfabulaの素材でつくる予定です。ここで建材として使えるということを実証・PRします。ゼネコンや設計事務所といった、建築に関わる層がターゲットになると想定しています。

─10年後、といった将来ではいかがですか。

建材での展開を考えていくと、製品の品質だけでなく「法律」が絡んできます。たとえば柱として充分に使用できるレベルのものをつくっても、新しい素材に対しては国の認可が必要になります。認可にはいくつものレギュレーションがありますので、数年単位で戦略的に取り組んでいく計画です。

また、建材分野だけでなく、当社の技術・素材は発展性があるものです。使い方、活用の仕方など可能性は広くありますので、工業製品だけでなく、デザイナーや農家さんなどと一緒に価値をつくっていける人はたくさんいると思います。いずれfabulaをプラットフォームとして、さまざまなコラボレーション・取り組みを行っていきたいと考えています。

企業情報

fabula株式会社
設立:2021年10⽉
住所:大田区南六郷3-10-16 六郷BASE
ウェブサイト:https://fabulajp.com/

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