Introduction
大田区工業ガイド発行にあたって
大田区は日本有数の中小製造業の集積地として知られ、高度経済成長期には約9,000を超える事業所が存在していました。多種多様な加工技術の集積の強みを活かし、戦後の高度経済成長期から日本の産業全体の屋台骨となり、さらには先端的な技術開発を支えてきました。 一方で区内ものづくり企業は、世界情勢の変化、サプライチェーンの再構築、人材不足の深刻化、脱炭素化をはじめとした新たな環境対策等、様ざまな課題への対応が迫られています。
こうした中、大田区と(公財)大田区産業振興協会では、工業集積の維持・発展に向けた支援、技術革新・経営革新の支援、ものづくり人材の確保・育成支援等、具体的な打開策となる事業を展開しています。
大田区の特徴である町工場の高い技術力と先端技術の融合により、製造業の新たな可能性を切り開く取り組みや、その担い手を生み出す環境づくりを実践しています。また、羽田空港跡地に開発された「羽田イノベーションシティ」を拠点に、スマートシティの実現を目指し、自動運転バスやロボット技術、5G通信などの先端技術を活用した実証実験が行われ、地域課題の解決や新ビジネスの創出が進められています。
本ガイドでは、大田区製造業の特徴と大田区、(公財)大田区産業振興協会の支援について掲載をしています。
このガイドを通して、大田区在住・在勤の方はもとより、国内外の多くの方が大田区工業について一層のご理解、ご関心を持っていただけますと幸いです。本ガイドで使用している数値は、総務省・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」および大田区「令和6年度大田区ものづくり産業等実態調査報告書」に基づいています。
Chapter 1
大田区の立地と特徴
大田区は東京23区の最南端に位置しており、面積は23区中第1位です。首都圏を代表する日本最大のハブ空港である羽田空港があり、国内外へのアクセスの要所となっています。また、東京都内でも特に昼間人口と夜間人口の差が小さい区として知られています。 区内は工業地域、商業地域、住宅地域などエリアごとに特徴があり、区全体で企業活動と生活空間が共存しています。


Chapter 2
大田区内に立地する製造業のデータ
大田区の製造業の事業所数は3,584と全国でも有数の町工場の集積地です。しかし、昭和58年の約9,100事業所をピークに、減少傾向にあります。減少の理由として、主にバブル経済の崩壊とリーマンショックなどの不況に加え、産業構図の変化、海外や地方への生産拠点の移転や、住宅地への工場跡地の転用、後継者不足による廃業などが挙げられます。しかし、このような厳しい状況下においても、新たな付加価値の創造や新産業・新事業の創出などにより、依然として製造業の立地集積がみられます。
大田区内に立地する製造業の事業所数の推移
経済産業省「工業統計」
総務省・経済産業省
「経済センサスー活動調査」
総務省・経済産業省「工業統計調査」総務省「経済センサスー活動調査」より作成
特別区に立地する製造業の事業所数<平成28年値を100とする指数>(令和3年)
総務省・経済産業省「経済センサスー活動調査」(令和3年)より作成
特別区に立地する製造業の製造品出荷額(億円)(従業者4人以上 令和3年)
総務省・経済産業省「経済センサスー活動調査」(令和3年)より作成
特別区に立地する製造業の従業者数<平成28年値を100とする指数>(令和3年)
総務省・経済産業省「経済センサスー活動調査」(令和3年)より作成
Chapter 3
大田区内に立地する製造業の概要
従業者規模
大田区内の事業所の従業員規模は、「3名以下」が4割以上を占め、「4~9名」を加えた「9名以下」の事業所は約7割となります。前回調査(令和元年度)と比較しても大きな変化はみられません。
区内には規模の小さな工場が集積しているのが大きな特徴と言えます。
大田区ものづくり産業等実態調査(令和7年)より作成
業種区分
大田内の工場の業種分類では、「金属製品」と「一般機械」で過半数を超え、電気機械や輸送用機械を加えた「機械・金属加工系」の業種は7割強となります。
付加価値が高い試作品や治具等の「多品種・少ロット生産」に特化した工場が多いのも大田区内の工場の特徴です。
大田区ものづくり産業等実態調査(令和7年)より作成
経営者について
経営者は2代目の割合が最も高い傾向です。
従業員規模別にみると、従業員規模が大きくなるにつれて事業承継が進んでいることがうかがえます。
大田区ものづくり産業等実態調査(令和7年)より作成
後継者について
事業承継の検討を行っている事業所のうち、後継者が「決まっている」が7割弱を占めています。
事業承継を検討せず廃業を考えている事業所は、2割弱(15.8%)にのぼることから、今後も事業所数減少が見込まれます。
大田区ものづくり産業等実態調査(令和7年)より作成
顧客に対する強み(複数回答設問)
大田区ものづくり産業等実態調査(令和7年)より作成
「生産工程(加工・組立、検査、品質管理等)」を挙げる事業所が7割弱と最も多く、次いで「製品企画、開発・設計、デザイン工程」が2割弱でした。具体的な仕様・図面が示されない段階から提案を行うことのできる事業所も多く、提案力・技術力の高い区内ものづくり企業が大田区内製造業の強みです。
過去3年間における人材の採用実績(複数回答設問)
過去3年間における従業員の採用状況は、「従業員を採用していない」約6割を占めています。一方で採用した年齢層としては「30歳~54歳」が最も多くなっています。またいずれの年齢層においても1~2名の採用が多く、従業員規模が大きい事業所ほど採用実績が高くなっています。
大田区ものづくり産業等実態調査(令和7年)より作成
人材不足の影響
人材不足が事業展開に及ぼしている影響は、「大きな影響がある」「やや影響がある」をあわせて5割弱となっています。従業員規模が大きい事業所ほど影響が大きく、人材不足に対する危機感が強くなっている傾向です。
人材確保が好調な事業者においては、公的機関の利用、廃業した事業所からの人材引き取り等、積極的な取組を行っているケースが見受けられます。
大田区ものづくり産業等実態調査(令和7年)より作成
Chapter 4
創業支援
大田区では積極的に区内創業者への支援を行っています。製造業の集積地であり、全国・海外からの玄関口である利点を活かし、支援サービスを充実させることで、大田区産業の発展を支えています。 創業間もないものづくり関連企業は自社工場を持たず、自社製品の開発を中心に事業を営むファブレス型の企業が増えているのが特徴です。「製品企画、開発・設計、デザイン工程」を強みとする企業が多くなってきています。 区内に立地するスタートアップ企業のなかには、デジタル化を通じて、「製品企画、開発・設計等」や「生産工程」の高度化、業務効率化に資するサービスを提供する企業もみられます。こうした企業と区内ものづくり企業の連携が深まることで、区内ものづくり産業の競争力が高まっていくことが期待されます。
大田区・大田区産業振興協会の創業支援
創業支援施設の運営『六郷BASE(大田区南六郷創業支援施設)』
創業支援施設として『六郷BASE(大田区南六郷創業支援施設)』を開設しています。新ビジネスに挑戦するスタートアップや起業家、起業希望者、中小企業に対して、ワークスペース、ノウハウ、マッチングの機会を提供しており、仲間と切磋琢磨できるコミュニティの形成を目指しています。 ハード・ソフトの両面における支援が充実しており、企業の事業成長を促進しています。さらにイベントを随時開催しており、情報提供・ネットワーク構築を支援しています。

創業相談窓口
大田区で創業を考えている方、創業して間もない方のための相談窓口を設置しています。事業計画書の策定や、資金計画、販路開拓、法人設立手続きなど、創業に関する知識の習得や、創業時の様ざまな課題の解決に向けて、創業相談員が支援します。
大田区では、「産業競争力強化法」に基づく「創業支援等事業計画」を策定し、平成26年3月20日に国の認定を受けています。この計画のもと、当協会は、創業相談窓口のうち、創業に関する必要な知識が身に付く支援を特定創業支援等事業として実施しています。この事業の支援を受け、一定の条件を満たしている方は、大田区が発行する証明書により、様ざまな特典が受けられます。

助成事業・勉強会
スタートアップ×大田区企業 ユナイト助成事業
スタートアップ企業が試作・開発の依頼・発注を大田区の中小企業に対して行う場合に、最適な企業のあっせんから助成金の交付を行うとともに伴走支援いたします。

ベンチャーフレンドリー塾
大田区内外のものづくり企業とスタートアップの関係者による会員制の勉強会。ものづくり企業とスタートアップの両者の強みやポテンシャルを活かし、相乗効果を高め、新たな市場開拓につなげていきます。

区内に立地するスタートアップ
株式会社水龍堂
大田区の羽田に拠点を置き、ROV(RemotelyOperatedVehicle:遠隔操作型無人潜水機)の開発に取り組んでいます。代表取締役 佐藤氏の、起業エピソードや商品開発秘話といったインタビュー記事を、当協会が運営する「テクノプラザ」で紹介しています。ぜひご覧ください!

スタートアップ
人の手に代わるROVの開発を通じて、社会課題の解決に
2025.01.08 / 株式会社水龍堂
水資源が豊かな日本は、広大な海を利用し、海上交通の活用、海洋空間の利用、海底資源の開発等が行われてきました。一方で、大自然の海はまだまだ謎に満ちあふれています。そのような中、水中(特に海洋)の「はかりたい」という要望に応えるため、…

株式会社DrumRole
六郷BASEに入居。現場での経験を活かしたシンプルで使いやすい「中小製造業向けクラウド型生産管理システム」を開発しています。代表取締役CEO松本氏、代表取締役COO牛尾氏に、起業に至った経緯や生産管理システムが誕生するまでの秘話を伺い、「テクノプラザ」で紹介しています。ぜひご覧ください!

IT・DX
製造現場での勤務体験が生きる 中小製造業向け生産管理システムを製品化
2024.08.08 / 株式会社DrumRole
昨今、製造業ではDX推進とともに、生産性向上や効率化のため多様なデータ活用が進められています。特に、工場の生産状況を一元的に担う生産管理業務は一層重要性を増しています。…

Chapter 5
新製品開発支援
大田区には精密加工や金属加工などの高い技術を持つ中小製造業が多数集積しています。区内企業間のネットワークや協業体制が整っているため、部品調達や試作が短期間で対応可能であり、スピーディーな開発が可能です。
大田区産業振興協会では、様ざまな新製品開発支援を行っています。
大田区産業振興協会の新製品開発支援
新製品・新技術開発支援(トライアル助成・開発ステップアップ助成・実用化製品化助成)
中小企業の製品開発力・技術力の向上を図り、付加価値を生み出すものづくり産業の活性化のため、区内中小企業が取り組む新製品・新技術の開発を支援します。
「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」という開発フェーズに応じて3タイプの支援を行っています。

大田区中小企業 新製品・新技術コンクール
優れた新製品や新技術を開発した区内中小企業を表彰し、その高度な開発力・技術力を広く区内外にアピールします。入賞企業に対しては展示会への出展助成や各賞に応じた賞金など、様ざまな受賞特典をご用意しています。平成元年に開始した本事業は、令和6年度までで36回実施され計323件の表彰を行ないました。

新製品開発に取り組む企業
株式会社カラーズと有限会社関鉄工所が介護現場の課題を解決したいという熱い思いから、異なる業種で連携して車いすを開発しました。異業種の2社が連携するまでのエピソードや、開発した車いすについて『テクノプラザ』で紹介しています。ぜひご覧ください!
SDGs
現場の課題から生まれた「チーム大田」で開発したオンリーワンの車いす【前編】
2024.08.08 / 株式会社カラーズ・有限会社関鉄工所
介護現場の課題を解決したいという熱い思いから、異なる業種の様ざまな大田区企業によって生まれた車いす。…
Chapter 6
羽田イノベーションシティにおける取り組み
羽田イノベーションシティ(HICity)は、大田区が羽田空港跡地第一ゾーン整備事業として、羽田みらい開発株式会社と公民連携によりまちづくりを進め、令和5年11月に全面開業した新たな「まち」です。
羽田イノベーションシティ内には交流を起点に新たなビジネスの創出を目的とした「PiO PARK(ピオパーク)」を設けています。世界と地域をつなぐゲートウェイとして、国内外のヒト・モノ・情報を集積し、ここに集う多様なプレイヤーの交流を通じて、新たなビジネスやイノベーションの創出、国内外に日本のものづくり技術や日本各地の魅力の発信を進めていきます。
PiO PARK
ビジネスセミナーや交流イベントなどの開催を希望される方に対し、イベントスペースを貸し出しています。また、フリーアドレス型のコワーキングスペースや個別ブース、会議スペースなどを整備しており、用途や利用人数に応じてご利用いただけます。
また、ショーケーシングエリアでは大田区企業のオリジナル製品や優れた技術を展示しており、年間を通じて多くの方にご覧いただいています。

超専門技術ミニ展示会
大田区ならではの高度なものづくり技術に特化したミニ展示会「超専門技術ミニ展示会」を開催しています。これまでに「穴あけ展」「曲げ展」「見えない展」など様ざまな技術に焦点を当てて開催しています。反響も大きく、多くの商談に結び付いています。

HANEDA共創プラットフォーム
羽田という立地ポテンシャルを発揮し、新たな領域へチャレンジする皆様を支援するプロジェクトとして「HANEDA共創プラットフォーム」を立ち上げました。
現在、「自社商品のつくりかた勉強会」「グローバルビジネス勉強会」「ベンチャーフレンドリー塾」の3つのグループ展開をしています。

海外取引相談サービス
海外展開を目指す区内中小企業及び個人事業者を対象に、専門家との個別相談等を実施しています。JETROや各国の産業支援機関との橋渡しも行います。
海外の企業・機関から協会に引き合いが寄せられた際は、区内中小企業との受発注マッチングを行っており、これまで多くの成約につながっています。



