立地は代わりのない「唯一無二」の大切な場所。
新たにお店を開業する場合、立地はとても重要な要素です。このコラムをお読みになる方の多くは、すでに特定の場所で営業していることでしょう。しかし、いったん出店したら早々移転することはできません。お店の歴史を重ね、店舗と住居を一体で構えている方もいらっしゃるはずです。新規出店のように場所を選ぶ自由はありません。ただ、自由はないといっても、決して制約や悪いことばかりではありません。むしろ、地域に深く根ざしたあなたの店舗は、他にはない圧倒的な強み、つまり「唯一無二の存在」です。
この立地は、あなたが築いてきた「信頼」といういちばんの宝物を、これからも毎日積み重ねていくための確かな土台なのです。
立地の「逆境」を「記憶に残る魅力」に変換する
一般的に「良い立地」とは、人通りが多い駅近やメインストリート沿い、人通りからよく目立つ場所などを指します(今回は、車利用での来店客を獲得するお店は別として考えます)。しかし、もしあなたのお店がその逆の環境に位置しているとしても、それをマイナスととらえる必要はありません。
1.「隠れ家」を特別な目的の場所にする
あなたのお店が少し不利な立地にあるとしても、お客さまに特別な価値を与える「隠れ家」になり得ます。隠れ家とは安易に用いられがちな言葉ですが、では、隠れ家として希少価値を発揮するには、どんな要素を備えればよいか、もう少し具体的に整理して考えてみましょう。
①「探す」楽しみ
お客さまにとって、噂のお店を探し当てて、初めてたどり着いたときの感動は格別です。この探す楽しみを提供すると、お店の存在価値が高まります。
②「選ばれた自分だけ」の優越感
人目に触れにくい場所にあるお店こそ、お客さまは「知る人ぞ知る」「誰にも教えたくない」という特別感を抱きます。
③「時間の価値」の向上
たどり着くまでに時間や手間がかかった分だけ、お客さまはその場所での滞在や購入した商品を大切に扱うはずです。
④「静けさ」が醸し出す集中力
大通りから離れた落ち着いた空間だからこそ、お客さまは商品やサービスにじっくりと向き合えます。これは、質の高い接客や商品の良さを伝えるための舞台でもあります。
2.「駅から遠い」を体験のスタートにする
もし駅からの距離が遠いとしても、それは「不便さ」ではなく、むしろお客さまのロイヤリティを高める機会だと考えを変えてみましょう。
①「デスティネーション効果」で目的来店を促す
「デスティネーション(Destination)」とは、もともと「目的地」という意味です。わざわざ訪れる価値のある目的地になることを「デスティネーション効果」と呼びます。駅近のお店は「ついで買い」のお客さまが多いのに対し、駅から遠いお店は「あなたのお店に来るためだけに」お客さまは時間と労力をかけてくれます。この目的買いのお客さまこそが、最もロイヤリティの高い常連客になる可能性があるのです。
② 移動をイベントに変える
お店まで来る道程を単なる移動ではなく、お店を訪ねるための「特別なイベント」に変えてしまいましょう。たとえば、お店までの散策ルートを地図で紹介したり、道中の風景や歴史をSNSで発信したりすればお客さまに体験価値を提供できます。
3.「長年の努力」を「新鮮な驚き」として届ける
お店の立地は変えられませんが、だからこそその場所で長く努力を続けられます。この継続する力こそがあなたの最大の武器であり、『点滴穿石』(てんてきせんせき)の精神で大きな成果へと結びつきます。
①「変わらない自慢」を語り直す
長年続く看板商品に「発売から〇〇年、一度も変えていない作り方」といったエピソードを添えて、パッケージや並べ方を工夫して目立たせましょう。
②小さな変化で楽しませる
季節のちょっとした飾りつけや、一部の商品を入れ替えるなどお客様に「来るたびに少し変化がある」というワクワク感を持たせましょう。
では、恒例の四字熟語の紹介です。
点滴穿石(てんてきせんせき):わずかな水のしずくも、長い時間をかければ硬い石に穴を開ける意味です。派手な一発逆転ではなく、日々の小さな努力を続けることの確かな価値と力を示しています。
私たちは、この強みを最大限に活かし、売上を伸ばすための具体的な工夫を、あなたの考えを大切にしながら一緒に見つけたいと思います。
4.「お店と暮らしの近さ」を親しみやすい魅力にする
①店舗と店主の住居が一体、または近接であること
店主の温かい人柄や日々の暮らしを、お客さまに自然と伝えられるメリットがあります。お店をただの買い物場所ではなく「気軽に立ち寄れる近所の家」のような存在にしたいものです。
②親しみやすい店主の顔
お店の歴史や、商品への熱い想いを手書きのメッセージや簡単な自己紹介として店内に置いてはいかがでしょうか。近隣にお住まい、お勤めのお客さまは店主の「人となり」を知ることで、より親近感を持ちます。
③上階スペースの活用
2階の空いている部屋などを活用して、商品を使った簡単な試食会や地域の人が集まれる「小さな集いの場」を試験的に開いてみるのも一案です。
あなたの店舗は、その場所とともに築き上げてきた歴史と物語によって輝いています。
この「お店の個性」を最大限に活かすために、私たちもあなたの経営への想いや方針を尊重しながら、一緒に成長の工夫を重ねていきたいと考えています。
