インバウンド対応の心構え

あきない活性化コーディネーター
粕谷 智和
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最近では外国人旅行客の方が観光地だけでなく、身近な街においても数多く見かけるようになりました。そのような方々を受け入れ、インバウンド対応力を強化していくことは、日ごろの商売に新しい流れを吹き込みます。
そこで今回は、インバウンド対応を進めるにあたっての心構えについてお伝えします。

言語の壁は、幻の壁

海外の方をお店に迎えるにあたって、言語の壁を理由になかなか積極的な動きが取れないこともあるかと思います。しかしながら、まずインバウンド対応の前提として、語学が「堪能」である必要は全くありません。

基本的に海外から日本に観光で来られる方は、日本文化を味わいに来ています。そのため、こちらから必要以上に歩み寄る理由はそもそもありません。多くの方々は、ことさら親切に何から何まで完璧な準備をしなければ、と考えがちですが、そもそも日本の「文化」を体験しに来ている方々です。行く先々でおもてなしを先回りして外国語が流暢である必要はありません。日本語プラスαで、最低限度のコミュニケーションが取れれば十分です。

海外の人々から評価が高い日本のお店について調べると、ほとんどのお店のコミュニケーションは、基本的に日本語で行われています。むしろ外国語対応をしすぎているお店だと、海外の方が興醒めしてしまうこともあるそうです。この感覚、わかりますよね。海外の方々が評価するお店は、いわゆる日本の古き良き時代~令和の現在に至るまで、よりたくさんの「日本文化」「日本らしさ」を感じられ、体感できることが高い評価をいただくポイントとなっているようです。

基本的に今はスマートフォン一つあれば、翻訳機能は簡単に使うことができます。専用の翻訳機を購入するにしてもそれほどお金はかからず、各自治体の補助金等の制度とも相性がよいです。

日本語プラスαのコミュニケーションはすぐにできますので、海外の方がお店にいらっしゃったときは、片言でも全然かまいませんので、躊躇なくコミュニケーションを図りましょう。

都心の有名観光地から、知る人ぞ知る、私だけが知る魅力の場所や体験探しへ

インバウンドの流れを考えるにあたって、海外の方々が日本へ初めて来訪された場合、通常は都心や国内の主要都市のいわゆる「観光スポット」を中心に回ります。その後、日本でしか味わえない「日本のグルメ」にあやかって、一通り満足したのちに日本を後にするという定番の流れがあります。

その定番の流れも、訪日2回目以降は徐々に変化し「日本の文化がリアルに感じられる場所」「都心から郊外へ、みんなが知る場所から、知る人ぞ知る場所へ」とシフトしていく流れが出てきます。インバウンドという言葉が浸透してから年数が経ち、初めて日本へ訪問する方々は引き続き多い一方で、訪日2回目以降の方々が着実に増えてきました。

2回目以降に訪問する方々は、それこそ「日本ファン化」が1段も2段も進んでいる方たちです。そのような方々は、すでに代表的な日本の観光・文化を一通り体験済みですので、より体感的に日本の「リアルさ」を求め始めていくという流れにシフトしていきます。日本の町中にある何気なく日本を感じる部分に感動したり、私たちが日常としているものに目を奪われたり、といった動きが出てくるのです。

このような流れが出てきていることも踏まえ、

日本語プラスαのコミュニケーションがとれれば、何気ない日本の商品やサービスを体験していただくことで、海外の方々に非日常を体験してもらうことは実はそれほど難しくないと心得ておくとよいでしょう。

「目玉となる商材がない」「海外の方を喜ばせる特別なサービスがない」ではなく、日本の日常を体験して頂くという視点を持つことで、既存の商売の中でもインバウンド対応の新しいアイデアを見出すことや、新鮮なサービスの提供ができると思われます。

インバウンド対応するにあたってのツールや施策

インバウンド対応を進めるにするにあたって、まず代表的な手法としては、Googleマップの自店情報を充実させたり、自店ホームページ等の多言語化対応などがあります。Googleマップの自店情報は自身で気軽に編集でき、日本語で発信した内容は基本的に自動翻訳機能により、海外の方々の使用言語に合わせた表示がなされます。またホームページの多言語化については、多言語化を支援する補助金や助成金等が、毎年コンスタントに出ていることが多いです。もし日常において「お店の前を海外の方が多く通るようになってきたな」と感じた時には、Googleマップの充実やホームページの多言語化を視野に入れることが、インバウンド対応の具体的な第一歩になります。

現在、大田区においてもインバウンド対応強化の施策が複数出てきています。もし気になる方がいらっしゃいましたら、ぜひ大田区産業振興協会までお問い合わせください。

海外の方向けに “おすすめメニュー” はありますか?

特に飲食店においては、実際にメニューを選ぶにあたって、海外の方専用のおすすめメニューがあることが有効です。コミュニケーションについては基本的に日本語プラスα程度で良い一方で、メニューに関しては「選ぶ手間を省くこと」が有効であり、売上にもつながります。
これについては、海外の方向けのおすすめの「セットメニュー」を作ることが非常に有効です。その際セットメニューを作る方向性としては、「全盛り」、「豪華」、「飲み物からデザートまで、当店のおすすめ中のおすすめを網羅」といったメニューイメージが有効です。ポイントは味の良さだけでなく、それ以外に「映え」の要素を加えるといったところでしょうか。このような食の感動要素は、先に挙げたGoogleマップの口コミ等に即時反映されやすく、海外言語の口コミが増えるとさらに海外の方が連鎖的に訪れるといった好循環を生みます。

インバウンドの人気店では、このようなおすすめメニューが必ずあります。お客様を呼ぶだけでなく、上記のような「全盛・豪華」の要素を持つ専用メニューがあることによって「高単価」も同時に実現し、売上向上につなげることができるのです。



あきない活性化コーディネーター 粕谷 智和

2001年東商一部上場衣料量販企業グループ入社、入社1年で店長に抜擢。 店舗オペレーションに通じ、マニュアル改善において全社表彰を3度受賞。 2009年より北海道音楽企業に入社。 エリア統括社長付として、エリア内支店昨年対比800%増を実現。 2014年KT'Sコンサルティングオフィス開業。 2020年株式会社ケーティーズ代表取締役就任。 流通業、小売業、飲食店、はもちろんのこと、各種業態に合わせたマーケティング、プロモーション、商品開発等についての積極的な指導を行っている。