「嘆き」からの発想の転換に向けて

あきない活性化コーディネーター
塩沢 秀人
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過去2,3年を振り返って、地域のお店を訪問して何度も聞いたのは「物価が上がって、人も足りなくて....」という声でした。まさに現場の実感、実態でした。今年こそは「嘆き」から一歩抜け出し、発想を切り替える年にしたいところです。各店主から私が聞いた話のいくつかを手がかりに「安さ一辺倒からの卒業」と「人手不足を前提にした店づくり」という2つの視点から、経営のヒントを考えてみます。

では、恒例の四字熟語です。発想の転換にぴったりの熟語をご紹介しましょう。

●推陳出新(すいちんしゅっしん)
「陳」は古いもの、「新」は新しいもので「古いものを捨てて、新しいものを生み出す」ということを指します。本来は、古い制度や習慣を改め、新しいものに取り替える意味です。また、経営や組織の文脈では、既存のやり方を見直して、新しい方法や価値を創造することを意味します。

「安さ一辺倒」から卒業して、固定客づくりにSNSを生かしてみる

昨年聞いた、思い切ってメニューの価格を見直した飲食店の店主の話です。
「やむを得ず値上げをしたら、地元の馴染み客が少し減ったんです。一方で、途中下車や乗り越しをして、わざわざ足を運んでくれるお客さまが増えてきました。いつの間にか、インバウンドも結構来るようになりました」

くわしく聞いてみると、とにかく安くして地元の馴染み客に合わせるというだけではなく、自店の価値に納得してくれるお客様に向けて、情報を届けていくことが大切だと感じたそうです。

この店主は、その考えのもと、SNSでの情報発信を地道に行っていました。SNSそれぞれの特徴をよく理解して、うまく使い分けていたのです。

〇Instagramで料理や店内の雰囲気を丁寧に発信し、店の存在と特徴を知ってもらった
〇来店してくれたお客様には、LINEで新メニューや限定情報を届け、再来店のきっかけをつくった
〇予約については、検索のついでに利用しやすい地図アプリやグルメサイトを併用し、「行きたい」と思った瞬間に席を押さえられるようにした

SNSで頑張りすぎない割り切りも大切

SNSは何でもやればやるほど良い、というわけではありません。特に小さなお店の場合、店舗運営以上に、夜遅くまでの返信・更新で疲れ切ってしまうような運用は、避けた方がよいでしょう。あれこれやろうとして、どれも中途半端になっていることはありませんか。

先ほどの店主は、「新規のお客様にまず店を知ってもらう」「再来店のきっかけづくり」といったように、SNSごとに役割を限定して、投稿の内容を整理していたようです。確かに、こうすることで無駄な作業が減ります。

店舗での接客と同じように、SNSでの対応も「できる範囲の品質」にとどめるくらいでかまいません。返事の早さよりも、内容が一貫していて、お店の雰囲気が伝わることの方が、お客様の印象に残ると考えてもよいでしょう。

Instagramは「見てもらうSNS」と割り切り、細かい質問や予約はLINEや電話に誘導する。
「ご予約・お問い合わせは〇〇〇から」と明記し、返信対応のルートが増えすぎない仕組みにする。
営業時間外には、返信が翌営業日になることや、営業時間・定休日・予約方法などを、自動返信機能であらかじめ設定しておく。そうすれば、閉店後に無理して返信しなくても、お客様の不満は生まれにくくなります。

営業時間外には極力休息できるよう、なるべく無理をしなくて済む仕組みを工夫することを今年は心がけていただきたいと思います。そうした取り組みが、発想を切り替えるスタートになるとも思うのです。

人手不足を前提に、地道な人材育成へ転換する

人手不足について、「即戦力の人材がほしいのに」と嘆く声は後を絶ちません。そんな中で、いくつかのお店では、探しても現れてこない経験ある中途人材を待つのではなく、一緒に店をつくる人を育てることを重視しています。そのために多少なりとも気長に、地域の中から人を見つけていく方向へすでに舵を切っています。

発想の転換の典型として、若者の活用と育成の方向性を打ち出した例があります。最初から即戦力の人を求めるのではなく、高校生のアルバイトやインターンシップの受け入れを広げて、ここで働くことの楽しさや誇りに気づいてもらうきっかけづくりを行っている会社やお店が実際にあります。仕事を少しずつ任せて、成果をきちんと評価する。結果、卒業後も続けて働いてくれる若者が次第に増え、10年後に若者たちの集団となった会社もあるのです。

ダウンサイジングで、店の強みを新たに築き磨く

人手不足が続くなか、多くのお店は「もっと人を増やしたい」と考えがちです。しかし一方で、むしろ「今の人数でどう店を回すか」に焦点を当てている事例があります。「大きく、多く、長く」から「小さく、絞って、集中して」へとダウンサイズする流れです。

ある菓子の製造小売店では、商品が洋菓子、和菓子、せんべいなどある中、従業員の減少に伴い、販売品を昔ながらの看板商品に絞り、営業時間も短縮せざるを得ませんでした。一見、ネガティブな経営状況ですが、結果として、作業効率が上がり、残業が減った一方で品質は安定し、地元のお客様からは「昔ながらの味が戻った」と好評を得ました。

また、ある飲食店では、アルバイトを確保できないために、まず店舗を移転して席数を減らし、家賃負担を軽減しました。あわせて、メニューを見直し、客単価を思い切って上げたところ、食材の工夫や料理の高級感が好評で、予約で満席状態が続いています。売上アップと経費削減の両方が奏功しているそうです。

このように、人手不足を前提に「店の規模を小さくする」ことで、従業員の負担を軽減しつつ、品質や接客の質を守るという発想の転換が広がっています。ダウンサイジングは後退ではなく、限られた資源を活かし、店の強みをさらに磨くための前向きな戦略といえます。

物価高も人手不足もしばらく続く前提条件かもしれませんが、その中で

「自分の店は誰に来てほしいのか」「どんな人と一緒に働きたいのか」を言葉にしてみることで、価格や集客、人材の活かし方が少しずつクリアになっていきます。新しい年を、「嘆き」から一歩進めて、「発信」「ダウンサイジング」「多様な人材活用」で、店の未来をつくる一年にしていければと思います。

「推陳出新」の精神で、今年は発想を切り替えていきましょう。

あきない活性化コーディネーター 塩沢 秀人

総合建設会社の関連事業部門・不動産開発部門、民鉄会社の沿線開発部門に勤務。 会社を早期退職し、現在は中小企業診断士、中小企業組合士、不動産コンサルティングマスターとして活動。 各地で企業を営む皆さんやまちにお住いの方々と、一緒に仕事をしてきた経験を活かして、みせづくり、ものづくり、まちづくり をお手伝いしています。