2017年06月07日 公開

手彫り刻印職人に学ぶ技術・技能継承問題

技術継承問題とは

 

優れた技術・技能による手作業が行われる場

技術・技能継承は大手・中小を問わず日本の産業界の重要課題のひとつ。数値データによる加工のデジタル化が進んだ現代においても、職人の洗練された技術が無ければ作れない部品・製品は数多い。

優れた技術・技能による手作業は、数値制御を超える精度の追求や短納期を実現し、日本のものづくりを支えている。大田区で操業する中小製造業は従業員数が9名以下の規模が80%と、この問題による影響は深刻さを増している。優れた職人の引退・廃業により、発注側企業が代替企業を見つけられず途方に暮れるケースは多い。

技術継承問題は団塊世代が定年を迎える2007年問題に始まり、多くの企業が退職年齢の引き上げによる延命措置を行ったが、団塊世代の職人が技術を伝えきれないまま退職する例は多く、問題解決には至っていない。

技術継承問題に挑む赤塚社長

 

赤塚社長が長友製作所(大森西3-18-17)在籍の斉藤慎さんにマンツーマンの指導を行う様子

大田区の技術継承問題に対する制度として、「工匠派遣制度」がある。当制度は、腕利きの職人である「大田の工匠100人」が相談を受けて直接技術指導を行い、技術継承を支援するものだ。そこで、当制度を利用して技術継承に取り組んだ赤塚刻印製作所(下丸子3-8-19)の赤塚社長に話を伺った。

赤塚社長は金属手彫り刻印・機械彫刻加工を専門とし、個人向けの刻印のみならず、国内外の有名な自動車や電機メーカー、ファッション業界のブランド刻印など幅広い業界で活躍しており、「大田の工匠100人」や「東京都優秀技術者(東京マイスター)」にも選ばれた日本で数少ない手彫り刻印職人の1人だ。

「もう年金を頂いている年齢ですが、業界の中では若手です。」と赤塚社長は話し出す。金属の手彫り刻印職人は年々減っており、バブル期に100人はいたとされる職人も今や数えるほどしかいない。それに加え職人が高齢となり、このままでは技術が途絶えてしまうという。
「今でも多くの方に必要とされるこの技術を受け継がないわけにはいかない」との思いから、積極的に自らの技術の普及に努めている。

「工匠派遣制度」では長友製作所(大森西3-18-17)在籍の斉藤慎さんに対してマンツーマンの指導を行った。制度上は3回までの派遣であるが、派遣後も自主的に指導を行い基礎の習得に取り組んでいる。

「基礎を教えるだけで数か月はかかり、一人前になるには10年の歳月が必要」と赤塚社長は続ける。習得した基礎を使いこなすためには経験の積み重ねが必要であり、高めた技術に更なる工夫を加えることで今の自分の技術があるそうだ。道のりの長い技術継承になることは必須だが、斉藤さんをはじめとしたやる気のある若手技術者のチャレンジに期待したい。

また、赤塚社長は「工匠派遣制度」以外にも、やる気がある学びたい人に対しては手取り足取り無料で教えている。同業者でも異業種でも見学の依頼があれば引き受け、汎用機械の使用法を聞かれれば一から教えている。地道で時間がかかる上に、自社の利益にもならないことだが、積み重ねてきた技術を絶やさないために赤塚社長は労を惜しまない。

技術の大切さを自覚する

 

自らの技術の必要性と重要性、そして責任を自覚しながら立ち向かう赤塚社長

なぜ赤塚社長はここまで技術・技能継承に力を入れているのか。

赤塚社長は「親会社からも後継者育成はしっかりして欲しいと言われます」と自らの技術の必要性と重要性、そして責任を自覚している。技術が絶えてしまうと顧客にとって今まで「当たり前」にできていた事ができなくなる。

 

赤塚社長の技術のみならず大田区の技術は、切削、研磨、めっき、熱処理など、ものづくりの基礎を支える基盤技術。基盤が失われれば、自動車、電機、航空機などあらゆる産業分野に影響を及ぼしてしまうことだろう。今ある技術は決して「当たり前」では無く、長年にわたる努力の結晶であり、それが失われることの影響を赤塚社長ははっきりと自覚しているのだ。

技術の大切さを自覚しながら立ち向かう姿は、技術・技能継承問題に対する答えの一つと言えるだろう。

2017.6.7
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