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日本の中小企業は技術力で空洞化を克服できるか

2004/10/21

(財)大田区産業振興協会
専務理事 山田 伸顯

中小企業は景気回復の波に乗っているか

 公文 敬(みずほ総合研究所 チーフエコノミスト 以下、公文)今回の景気の回復局面では、いろいろな格差が生じました。大企業と中小企業、製造業と非製造業、法人と個人、都市と地方、この四つの二極化の中でも、中小企業の回復が大企業に比べて遅れたことが、大きな問題点となりました。しかし、6月調査の日銀短観では、中小企業の製造業でもようやく景況感がプラスになりました。中小企業も大企業にキャッチアップする動きが出てきた印象を受けます。

 山田 伸顯((財)大田区産業振興協会 専務理事 以下、山田)大田区は機械工業のまちですが、2001年の4月頃から非常に悪い状態が続き、昨年の秋頃までは厳しかったと言えます。企業の80%で仕事が激減し、極端なところでは仕事量が80%カット、平均しても50%の売上ダウンという状態でした。大田区全体には5~6千の工場がありますが、従業員4人以上の規模で見ても3,000社が2,700社になり、さらに2,400社へと毎年10%ずつ減っています。それが昨年の秋口以降、回復してきたという実感がでてきました。一部の企業には急激に仕事が集中していますが、大田区では、仲間企業が横に連携しているので、分業すべき相手がいなくなって仕事が来ても受けられずに断るケースが随分増えています。ただし、全体が好調なわけでなく、技術力の高い企業に仕事が集中し、従来型の業態が改革されていない企業には仕事が流れていません。

 公文 統計でみると、今回の景気回復の特徴は、大企業が中小企業に比べて良く、中小企業の中でも規模が大きい方が良くなっています。大田区では規模の小さな企業が集中しているようですが、こうした統計と実際の企業の動きとの間に何らかのギャップを感じられますか。

 山田 中小企業の中でもある程度の規模をもった中堅企業になりますと、設備投資も進み技術開発も積極的に行っていますから、ご指摘の点は当たっています。

 公文 一口に中小企業といっても、日本の企業数の99.7%が中小企業ということになりますし、従業員全体の80%を占めるわけですから、単純に一括りにはできないでしょう。ここでは製造業に注目していきたいと思います。特に、最近大企業では、DVD、デジカメ、薄型テレビ等のデジタル分野への需要が拡大していますが、中小企業はこうした動きにどう対応しているのでしょうか。ちなみに「ものづくり白書」(2004年版)では、デジタル家電生産拡大の部材産業への波及効果が非常に大きかったと報告されています。しかし、その一方で規模別の産業関連表からは、I T(情報技術)関連産業の波及効果は、中小企業には大きくないとの分析が出てきます。

 山田 半導体のようにスケールメリットを求めるものに中小企業が手を出せないのは事実です。しかし生産するには設備が必要ですから、そこに中小企業の出番があります。携帯電話などに集積回路を乗せていく自動装置や液晶などの検査機器には、大田区の中小企業の技術が生かされています。デジカメのストロボの反射鏡などはプレスで製造しますが、これはデジカメにとってコアになるパーツです。製品生産そのものが中国へ流れていっても、中国では処理できずに国内へ戻ってくるものもあります。また、大手電機・電子メーカーの生産設備は“高度な一品生産もの”であるため、技術力で優位な中小企業にもデジタル景気の波及効果はあると言えます。

生産拠点の空洞化の実態

 公文 近年大企業中心に中国進出が盛んになり、その分生産が中国へシフトしています。大企業は労働集約的な業務を外へ出し、付加価値を高める業務を日本で行い、多角化した方向付けができたと思いますが、中小企業の場合には生産品目を多角化することもできず、中国へ逃げられてしまうとその部分が失われてしまいます。

 山田 家電を中心にして生産拠点が海外へ流れています。最初は組み立てだけでしたが、最近はパーツも含めてアジア諸国で生産されるようになり、中でも中国が台頭しています。このままでいくと空洞化はさらに進むと思われます。しかし、もともと自動車業界では消費地生産を原則とする傾向が強いようです。ただし開発部門はもちろん国内で維持してきましたが。一方、電機業界の場合は、デジタル家電という新しい分野で最も先鋭的な技術を持つようになりましたが、最近すべての生産を海外へ移すのではなく、開発的な部分は国内に残すようになっています。そうした開発機能にかかわれる技術力のある企業とそうでない企業とで、中小企業間の二極分化が起こっています。

 公文 大田区は東大阪市と並んで、基盤技術(メッキ、鋳物、鍛造、金型等)に優れている特徴がありますが、都市型の産業集積の推進力になる基盤技術の出荷額は総体的に減少しています。これも中国へ生産拠点が移されていることが、大きくかかわっているのでしょうか。

 山田 確かに中国では、基盤技術についての能力は高まっています。この背景には、生産技術の中にITが持ち込まれたということがあります。CAD/CAM(コンピューターを利用した設計・製造)を用いて、設計から製作までデジタルで行えるようになっています。しかし大田区や東大阪市の基盤技術は、すでに大量生産という段階になく、随分前から生産拡大をする場合には地方へ移転しています。その地方工場で対応できない技術が、再び大田区へ発注されるという流れになっています。一見すると、区内の地域空洞化に見えても、企業単位のつながりでは大田区の企業が区外に出ているだけであって、本当の意味での空洞化ではないという見方ができます。国際舞台に移っても同じことが言え、中国にできない技術は何かを見据えることが必要になります。

日本の職人の伝統は受け継がれているか

 公文 日本の特徴として、極めて精巧な製品を職人の技術で生み出してきたということがありますが、こうしたところがどう生かされていくのか、注目しています。アテネオリンピックの陸上競技で、砲丸投げの金銀銅を日本製の砲丸が独占したそうで、この鉄球の中に鉛とタングステンを溶かし込み、重心を整えていく、まさに日本の職人の神技を紹介するテレビ番組がありました。このようなデジタル化できない技能という点で、日本はまだ世界をリードしているのでしょうか。

 山田 製造業、機械加工業にデジタル技術が入り込んで、すでに30年以上の歳月を経ていますが、たとえばパラボラアンテナを製造するには、大きなものになると1枚の鉄板を3人掛かりでしぼりあげていく作業が必要になります。職人同士のあうんの呼吸と感性が必要不可欠で、コンピューターでは制御できません。しかしメジャーな部分は、コンピューターで数値制御して製作するNC加工が主流になっています。とはいっても、このNC加工の機械を使いこなすにも、プロセスを含めて熟練度が強く求められるのです。

中小企業を支える人材をどう育てるか

 公文 いま中小企業が直面している問題には、後継者難および熟練工の高齢化もあります。少子化の進展で、まもなく大学でも人員的には全員が無試験で入学できる計算になります。そうすると大学への進学率は高まりますが、日本経済を支えてきた生産現場へ、足が遠のくのではないかとの懸念もあります。またオリンピックの話になりますが、アテネで日本がメダルラッシュを実現したのは、長期的な視野に立ち、必要な資金を注ぎ込んで人材を養成してきたからとも言われています。中小企業が必要とする熟練工を育成するにも、こうした視点が求められているのではないでしょうか。

 山田 経営の後継者については、企業として儲けを出していれば、必ず後を継ぐ人材はいます。技術の後継については、おっしゃる通りで、若い頃からきちんとしたシステムの中で教育するのは大事なことです。日本経済の源泉はものを作る製造業に立脚し、中小企業はそれを支えています。その基盤を維持していくため、地域的にも新しい人材養成の動きが出ています。大田区でも今年の4月に単位制の都立六郷工科高校が開校して、その中にドイツの二元教育制をモデルにしたデュアルシステム課程が創設されました。これは学内における学習だけでなく、企業における就業訓練も卒業のための単位として認められるものです。従来、都市部では工業高校の人気がなく入学後の動機づけが難しかったのですが、企業での就業体験を通じて子どもたちが自負心を持ち、実社会において自分の存在のありかを認識できるようになって欲しいと思っています。中小企業にとって、人材育成は非常に重要な問題です。私どももインターンシップなどを積極的に展開してきましたが、人材育成は非常に重要という認識は、行政をはじめとして国内のコンセンサスとなって動き始めたところです。

元気な中小企業の特徴はどこにあるのか

 公文 そのような人材を受け入れるためにも、中小企業は元気でなければなりませんが、元気な企業と淘汰されかねない企業があることは見逃せません。中小企業金融公庫のアンケート調査結果によると、売上高が増加している企業の中で、従来の低価格、低コスト、小回りが利くという特徴を掲げているところは少なく、技術力、販売力、ノウハウを高めていることを特徴としたり、品質の維持やデザインに独自のものを持っているとする企業が多くを占めています。

 山田 発注先が求めるのは、低コスト、短納期、高品質ですが、下請型の企業として限界に近づいてきました。そこで着目したのが、自社の技術を生かした新しい製品を作ることです。これがプロダクト・イノベーションです。それが消費財であれば、生産財と異なりデザイン性に大きなウエートがかかります。また技術力にこだわり、既に成熟していると考えられていた基盤技術の製造工程を見直そうという動きも出ています。そうすると今までにない優れた製品が生まれ、環境対応やコスト削減にもつながっています。これをプロセス・イノベーションと呼んでいます。こうした取り組みが、勝ち組の方向へ進む要因の一つになっていると考えられます。

中小企業の活路をどこに求めるか

 公文 需要が全体的に落ち込んでいて、売上高が伸びない状況では、販売先の拡大への対策がかなり重要になってきますが、大田区では海外や国内の見本市や展示会への出展を積極的に支援しているということですね。単独の企業では難しいところを、地方公共団体としての信用を生かしているということでしょうか。

 山田 中堅企業に展示会に参加してもらうことで、その販路が拡大すれば、ひいては区内に受注が跳ね返ってきます。かつてはフルセット型の産業構成で大田区だけで完結して需要に応えられていたのですが、今では得意技術が分岐して、大きな面積を使う企業や重量物を扱う企業は区外に出て行きました。しかし、相互に連結しなければ完成品ができないということで、全国的なネットワークを展開するためのデータベースを築いています。また年に2回、パーティー形式の商談会を開いています。

 公文 好調な企業、売上増を見込んでいる企業を見ますと、本社の所在する都道府県だけに縛られているのではなく、販路の地域が広くなるほど業績が良いというデータがあります。大田区のケースはこうしたデータにも当てはまります。こうした支援をしているのは大田区だけなのでしょうか。

 山田 そんなことはないと思いますが、それぞれ特徴があるのだと思います。ただ、大田区は展示会に自治体として共同出展するなど先駆的なほうでしたし、受発注業務を1960年代から行っているのは珍しいケースでしょう。

 公文 中小企業の開発力向上に有効なものとして、産学提携、産産提携などありますが、ここでもパイプ役として、地方自治体の役割が大きいと思います。

 山田 自ら開発した技術を製品化していこうという問題認識や当該分野に対する見識を持たねば始まらないのですが、最近では意欲的な企業が大学との連携を深めようとしています。私どもはこうした輪を広げようと、東京工業大学、武蔵工業大学、芝浦工業大学など地元の大学に働きかけ、産学連携の相談員を置いて大学のノウハウと中小企業の技術を結びつけるコーディネートを行っています。今年からは大学と中小企業をつなぐシステム「ものづくりマッチング」を始めたり、ナノテク(超微細技術)関係では商社と中小企業の提携を進めたりしています。

 公文 大企業ではセル生産方式、技術のブラックボックス化、すり合わせ分野での優位性が言われていますが、それに対抗するものとして、中小企業ではどのようなものがあるでしょうか。

 山田 中小企業の集積地というのは部品ひとつ作るにも組み合わせていくので、自然発生的なコラボレーションが伝統的に成り立っています。それを意図的に行うには、相互にCADを一致させるなどデジタルによるネットワークを再構築することが大企業の要請に対応する上で重要です。大企業の注文形態も個別的な依頼でなく、丸投げ的なものになってきています。それに対しては、私どもで技術を分解してそれぞれに見合う企業を探し出して対応していますが、このように企業集積を生かしたネットワークが最大の武器だと考えています。加えて、企業間で連携して応えられる仕掛けを全国レベルで準備しています。これは国際間分業に対応していく上でも重要です。

ビジネスを育てる、人を育てる

 公文 ニュービジネスの輩出に対して、かなりいろいろなことをおやりになっているようですが、たとえば先端的技術産業を育てるために、大田区では具体的にどのような支援策を行っているのでしょうか。

 山田 大田区では昨年の5月に創業支援施設をスタートさせていますが、これは廃校になった小学校の施設を利用しています。約30社に3年間で巣立ってもらおうという試みです。ハードにお金をかけない分、ソフキュベーション・マネージャー(創業支援者)を設置して、技術、マーケティング、資金調達などの相談に応じられるようにしています。もっと言えば、それぞれの企業がみんなニュービジネス志向を持っているのですが、下請けという枠組みの中で余計なことが出来ないという事情があります。この土壌を変え、違う分野で自社の技術を生かした形でにじみ出るというところを公的支援機関としてやりたいと考えています。各方面の専門家60~70名にボランティアのビジネスサポーターになってもらい、企業を支援できるように取り組んでいます。企業にとって弱いところ、新しい着想を結実させる入口部分と、販路をいかに確保するかという出口部分の強化に取り組む余地があります。

 公文 人材育成という点では、若年世代の定着率が落ちていることもあり、次代を担う人材をどのように確保するかが重要です。日本での少子化の傾向は止めようもない事実ですが、これを補うために外国人労働者を雇用するのも有力な解決策の一つではないかと考えられます。実際に海外から留学生や研修生を招いて、育成している財団もあります。中小企業の就業者の平均年齢を見ますと50~60歳代と高く、長く定着している熟練者が多い逆ピラミッド構造になっています。こうしたことからも若年世代の定着が、うまく機能していないのではないかと危惧されます。

 山田 夢がないと若者は定着しません。中小企業でも、何をやりたいのかをきちんとプレゼンすれば、多少ギャラは安くとも、おもしろい仕事と受けとめてくれれば、若い人たちが入社してきます。企業も技術の進化とともに変わらなければ、社会からも若者からも取り残されます。最近はそれなりの若者が入ってきていると思います。そうは言っても絶対的な条件として少子化へ向かっているのは事実ですから、国際的にはもっと流動的に、お互いの人口の移動があっても良いと思いますが、その前に国内的に解決すべき問題が見えており、高齢者でも働ける労働環境を整えることで、雇用を延長することが大事です。こうした構造的な問題に着手した上で、国際間分業の時代ですから、国際間の人口移動や役割分担のあり方についても考えるべきだと思います。

 公文 まさにおっしゃる通りで、現在の60歳代は体力的にも知的にも非常に若いので、働く意欲のある方に働いてもらうのは当然と思います。一方、日本では少子化が進み、アジア諸国をはじめ人口が増加している国が多くあるのも事実で、しだいに外国から日本に人が集まってくるのは避けられません。これを無秩序に受け入れるのではなく、ドイツやアメリカで実施しているように、技術力や専門能力を持つ人材を計画的に受け入れることも必要になります。すべて排除するのではなく、そろそろそういったことも考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。貴重なお話を聞かせていただき、日本の中小企業の活力が伝わってくる思いがしました。本日は、どうもありがとうございました。

 本対談原稿については 「みずほリサーチ October 2004」に特集記事として掲載されました。

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