生産性向上モデル企業育成事業成果発表会「今後の韓日協調の方向―FTAを考える―」
2004/12/03
(財)大田区産業振興協会
専務理事 山田 伸顯
はじめに
韓国と日本は、長年にわたり「近くて遠い国」の間柄が続いてきた。しかし、文化交流の解禁やワールドカップの共同開催を期に一気に心理的にも親近感が増してくるようになった。その象徴的な現象が「冬のソナタ」に代表される「韓流」と、韓国の俳優に対する日本人の熱狂ぶりである。ヨン様がもたらす経済効果も抜群である。「冬のソナタ」の撮影地である、韓国江原道に多くは日本の女性が観光客として殺到し、その経済特需が15億円と言われている。オロナミンCは、ペ・ヨンジュンをTVコマーシャルに起用して以来、売り上げが30%も伸びた。ロッテのキシリトールガムを日本で箱買いする現象が起こっている。何も日本の女性がガム好きというわけでなく、外箱にヨン様の顔が写っているからということらしい。この日本の異常さを受けて、韓国のロッテデパートでもヨン様を大々的に売り出し、景品にもポスターを供するなど日本人の集客効果を狙っている。日本人は熱しやすく冷めやすいので、ポスト・ヨンを考えておかないといけないだろう。
しかし、ビジネスにおける韓日関係は必ずしも順調に推移しているわけではない。韓日FTAの進捗状況も、日本からの輸入増加に対して韓国側の警戒感が強く、国民的合意に至るまでになっていない。韓国は97年の経済危機から急速な回復を見せているが、その間中国が著しい高度経済成長を遂げており、貿易もGDPも韓国より高い伸び率を示している。技術的には日本のレベルに達せず、コスト的には中国にかなわないという中途半端な位置にあって、産業の空洞化を抱えながら成長のジレンマに陥る危険性がある。
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| (財)日韓産業技術協力財団 山崎常務理事 | (財)大田区産業振興協会 専務理事 山田伸顯 |
1.失われた10年からの日本の復活
日本の経済は、90年代初頭のバブル崩壊によって、「失われた10年」という七転八倒の時代を過ごした。しかし、この間着実に技術開発を進めてきた企業は、今日大きな飛躍の時を迎えている。下請け・量産型の体制から、独自な技術を確立し開発型へ転換した中小企業も同様に存在価値を高めている。日本の中小企業政策も大きく転換した。すなわち、伸びる企業を積極的に支援するという政策に変わった。技術的にはデジタル家電という機械技術と電子制御技術の融合する分野で、日本の強みを最大限に発揮し、世界市場を制覇できる体制が整った。中国への生産シフトを加速させたが、日本の得意とするコア技術に基づく部品の供給が急増し輸出が拡大している。公共投資の効果はほとんど現れず、財政は借金依存を高め、国債残高は増大の一途をたどっている。結局今日の日本経済を再生させた原動力は民間主導によるものなのである。
2.韓国・日本・中国の経済と貿易の発展
貿易の伸びとGDPの成長率には相関関係が認められる。韓国の貿易の伸びは世界の伸びよりスピードがあり、日本のスピードより早い。輸出依存度も高い。97年の経済危機で落ち込んだ分、回復基調にあるとはいえ伸びが鈍化している。この間中国に追い抜かれた。
日本との貿易関係は、輸入が輸出を大きく上回り慢性的な赤字が続いている。しかし、コア技術を取り入れて付加価値を増した製品をつくり、中国に対して輸出することで全体としては貿易を黒字に転換している。3国間のバランスをとって、仲介者として産業の棲み分けをもたらしている。存在感を増すことによって、日中間に埋没するのでなく、最も収益性の高い分野を取り込むことを追求するべきである。また、韓国はもっと自国の中小企業の有する技術に対して高く評価し、国内のサプライヤーとしての地位を引き上げて然るべきである。
日本は先端的な技術開発に集中して再生を図ろうとしている。これはもちろん大変な努力を要することである。中国は低コストの生産供給に強みがあるといっても、最近コスト削減競争が激化し、日本よりも厳しいとさえ言われている。韓国はこの両者の中間にあって、うまみのあるところを取り込むという戦略を立てるということである。韓国の中小企業は、日本と異なり極めて積極的に中国への進出を企てている。仁川国際空港がアジアのハブ空港としての地位を築いているように、韓国の地勢的な条件を生かした国際間の産業の棲み分けを推進することが最も有効な方向性である。
3.先端的技術開発を担う中小企業
大田区は日本の中でも有数の機械産業の集積地である。工場の地方移転、海外移転が続き、長い不況の影響もあって倒産・廃業が相次いだため、9000以上の工場が5000をわずかに上回る程度の数に減少するなど地域内の集積は弱まった。しかし、独自の技術を有し大手企業と対等に渡り合える企業や、自ら新製品開発を進める企業、また、試作や金型製作など、大量生産にとって不可欠の優れた技術を持った企業が生き残っている。
[企業事例]大田区の企業6社を紹介
■北島絞製作所
・へら絞りという熟練工の技能を必要とする加工技術。
・宇宙ロケットの先端部分や、パラボラアンテナなど、ハイテクを支える技術としても、また、照明器具や装飾など様々な用途がある。
・マニュアル化・数値化できない、アナログ的技術の典型。
■新妻精機
・3次元のCAD・CAMを駆使して、最新の工作機械によりスピード加工を実現するデジタル技術の最有力企業。
・試作のプロフェッショナルを自負し、自動車・電機等のあらゆるメーカーから注文を受ける。
・多面体、自由画面など複雑形状品や、難削材など高度で精密な加工ニーズ対応。
■三津海製作所
・真空ポンプの専門メーカー。小型ポンプの開発においてニッチトップ企業。
・ATM機(キャッシュ・ディスペンサー)、紙幣計算機、胃カメラ、歯科用吸引機、吸着搬送用、ロボットの自動化用、焼肉煙吸引など、幅広い分野で利用される。
・韓国の中小企業と提携し、ダイカスト・プラスチックの成形と一部ポンプの組み立てを分担してもらう。金型の調達や試作も依頼している。
・ゴムの材料はアメリカから、カーボンはイタリアから調達。良質で低コストの部材を国際的に調達する。最終製品のコストダウンに貢献。
■産学連携研究開発支援施設(ふくはうちテクノロジー)
・DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)という炭素膜をコーティングする技術。
・DLCは、高硬度、低摩耗、低摩擦、表面平滑性に優れるという特徴を持ち、金型、工具、摺動部品などにコーティングされ利用されている。
・ガスバリア性があるので、ペットボトルの内側にコーティングするとビール瓶になる(炭酸ガスが抜けないため)。
・入れ歯にコーティングすると汚れがつかなくなる。
4.生産技術の革新 ―プロセス・イノベーション―
■トキワ精機
・韓国釜山に協力工場があり、そこからストレート型の継ぎ手を毎月15ないし16万個ほど購入している。
・主に建設機械(フォークリフト等)の油圧継手(エルボー)を製造しているメーカー。
・従来の製造方法では、中国の低コストにかなわない。そこで、新しい製造法を確立し、特許を取得。
・歩留まり率の向上など環境対応に適合し、コストダウンを実現。
■インクス
・金型設計において、光造形という技術により製品模型を製作し、CAD設計を行い、そのデータを用いて、マシニングセンターで金型を自動的に製作するシステムを開発した。
・携帯電話などの金型製作は、従来30日かかるところを4日でできるようになった。
■金属光造形複合加工機
・東京都城南地域中小企業振興センターに設置された、日本で開発された第1号機。粉末合金をレーザー光線で焼結させ、続いてマシニングセンターによる研削加工を行う。
・金型の高速製作を可能にする。
[重要な課題]
知的財産
意欲的な中小企業は、知的財産戦略を経営の中心にすえて推進する構えを見せている。しかし、日本の政府としてはそれほど中小企業の知的財産に対して重視しておらず、特に中小企業に対する支援を積極的に取り上げようとはしていない。知的財産戦略推進本部長である小泉首相あてに要望書を提出したが、これはその重点項目である。また、信託業法がこの秋の国会で改正される予定である。そのときに信託銀行と提携して中小企業の知的財産保護と活用を促進するため、特許権を信託財産とするための支援策を考えている。
人材育成
インターンシップなどを通して、若年層に企業での社会経験をすることで職業意識を持たせる事業に取り組んできた。産業と技術を担うのは結局のところ人材である。
5.国内のネットワーク再生・海外との連携構築
日本国内で広域的な中小企業ネットワークの構築を進めている。先端的技術開発のための設備投資が国内で活発化しているが、それに対応できる中小企業は特定の地域内に存在しているとは限らない。より広域的に連携を構築する必要が生じている。そのために展示会に中小企業を積極的に出展させたり、商談会を活発に開催したりすることが求められている。国内のネットワークを再生させながら、海外との連携を模索している。政府間交渉を待つのでなく、いわば草の根の運動として、企業の取引拡大を支援する意味で海外との交流の場作りを進めている。海外の見本市への共同出展や、カウンターパートとの提携などを推進する中で、信頼関係を構築していこうと様々な事業に取り組んでいる。
6.アジア経済ネットワーク構築
韓日だけでなく、韓日中の3国を機軸にしつつアジアの経済ネットワークを構築するという視点が重要である。
国際的取引連携(アライアンス)を進めるために、各国の得意技術を活かした産業の棲み分けがアジアにおいて求められている。そのときに重要なことは、一方的な関係でなく相互の利益をもたらすあり方を模索するということである。つまり、WIN-WINの関係である。
今後解決すべきこととして、以下の課題があげられる。韓日中FTAを核にしたアジア経済連携の形成アジア全体の経済連携を形成するには、韓日中のFATを締結することが中心的課題となる。
・国際間分業体制の構築
具体的には、アジア相互間の技術移転・交流センターを設置することが有効である。
・知的財産権の相互保障
まだ知財に対する認識が低く、国家的に交渉し確認する課題が多い。
・アジアスタンダードからグローバルスタンダードへ
携帯電話、ICタグなど、情報技術の標準化を進める必要がある。
・アジア航空網の再編
羽田空港がソウルの金浦空港とチャーター便の形態からスタートして、現在日に4便往航するようになった。2009年の国際線ターミナルの完成とともにアジアとの密接な結びつきが可能となる。そのときに、アジア相互間の航空網を再編することが重要となる。
世界におけるFTAの締結が急増し、2003年末で181件となった。1958年にEEC(欧州経済共同体)から始まり、1993年に35年かけてEU統合が行われた.NAFTA,AFTAなど世界の各国は地域ブロックを形成して経済連携を構築していく。東アジアでこの流れに取り残されるならば、国際的な経済競争の中に埋没してしまう恐れが十分にある。今こそ、一歩踏み出す勇気が必要である。
本原稿については 「04年度 生産性向上モデル企業育成事業 成果発表会」の講演内容を掲載しました。
