モノづくりを支えるサポーティングインダストリー強化の取り組み
2006/03/01
財団法人機械振興協会 経済研究所
委託先 経済社会活性化研究所
第9章 関係有識者の見解
2.大田区産業振興協会専務理事 山田 伸顯氏
-わが国のサポーティングインダストリーの強さは、具体的にはどういうことなのか。
「実はここにタイ国のアマタナコン工業団地のパンフレットがあるが、この中で、同工業団地が “OTA TECHNO PARK”を設置して、大田区内中小製造業の誘致を呼びかけている。これはわが国サポーティングインダストリーの競争力の強さ、優秀さに着目したことが背景にある。同工業団地には、世界各国から380社が進出しているが、その7割の約260社は日本企業で、自動車、電機、工作機械などの企業がそれぞれの部門ごとに大きな実績を挙げている。サポーティングインダストリーについても10年前から誘致を呼びかけてきたものの、はかばかしくない。このため現地での対応力がないことから、金型を日本に持ち帰ってメンテナンスしなければならないなどの事態も生じている」
「そこで同工業団地の経営トップが大田区内の工場を視察した際に、日本の世界最先端の国際競争力をサポーティングインダストリーが支えていることを改めて知り、わが国の優れたサポインを何が何でも誘致する必要があると判断し、大田区内企業専用区画を設けたのである。日本企業の加工技術レベルの高さを確信した同工業団地は、専用の受け皿を整備して誘致しても成り立つと考えている。タイ国政府も切削、鋳造、金型など業種指定して、金融、税制など様々な優遇措置を講じて育成しようとしたが、なかなか育たないし、あってもローカル企業は歴然とした格差がある。その経緯を通じてわれわれも日本のサポインの確固たる存在意義を再認識させられた。理論と同時に実戦で培ってきた技術は非常に強く、マニュアル化できない暗黙知が大きいし、それがまた応用力にもなっている。いってみれば、日本の抜きん出た国際競争力の源泉みたいなもので、そのサポインが崩れるかどうかで、日本のモノづくり自体のありかたが全く変わってしまう」
-日本のモノづくりを支える重要な役割を担っているというサポーティングインダストリーとは。
「しかしそれが分かっているようで分かっていない。大田区にはそうした傑出した企業が集積しているといわれるが、個々にはどうということない企業がたくさんある。一応それぞれの得意技で専用分野、技術に特化しているが、特化している企業が単独で存在できるかといえば、存在できない。いわば連携しないと部品一つできない世界にある。そういう構図がこの地域にかなり凝縮されていて、メーカーの取り扱う製品サイズのバリュエーションも様々だし、ロットも様々ということで色々な選択があり、それを組み合わせることにより、試作だけではなくそこそこのもの、場合によっては一定のユニットまでつくれる。どうということのない集まりのようだが、それがある程度固まると相互に依存しあいながらネットワークを成り立たせているということは、そういう可能性を広げられるものを持っているのではないか。だから日本のサポーティングインダストリーを担っているのは、大変脆弱な層が圧倒的に多く、しぶといけれども、さんざん痛めつけられてきたので厳しい現状にある」
「日本のモノづくり構造を見ると、従業員4~9人の企業が実質的に底辺層になっている。この層が80年代以前の過当競争の買い手市場時代に買い叩きされる中で、切磋琢磨してコストを落とし、技術力を上げ、短納期に対応して切り抜けてきた。ところが、全国事業所統計調査によると、85年から03年の20年足らずの間にこの層が4割以上も減っている。大田区でもこの層の減り方が一番多い。しかし全国でそうした傾向にあるということは、これまではコストダウンの受け皿というか転嫁の先がそこにあったが、それがもうできなくなる恐れがある。結局、この層がサポインを支える最もベーシックな部分になっている。もちろんパワーのあるところは規模もあり、開発部門まで持ってやっており、今後サポインの中心となるが、それを支える層も同じように重要だと思う」
-日本のモノづくりの根底を実質的に支えている底辺層の企業の存続の危うさについて。
「これまではこの層がコストパフォーマンスだけで落とされたり、切磋琢磨してきたわけで、それで生き残った層は非常に強い。ところが気になるのは、最近、完成品メーカーの国内回帰現象が起きているが、コストダウンに耐え切れないなら、金型などを中国から調達するという構えを見せていることで、それで本当に国内回帰といえるのだろうか。そんなことしていると、いざというときに国内で調達しようと思っても相手先がいなくなってしまう事態がありうる。その層が日本の最も得意とするサポーティングインダストリー分野を担っていて、開発に自在に対応する応用力があるし、自分なりの工夫もできるので、国内で研究開発が進み、基幹部品の供給なども可能になっている」
「しかし、今のような買い叩きのままで済むと思ったら大間違いで、それなりのパートナーシップを組み直す必要がある。技術課題は次々と出てくるので、それを背負っている層と新しい加工法などを工夫し、まったく新しいプロセス型のイノベーションを進めるべき段階にきているのではないか。今回投げかけられたサポイン支援は、改めて日本の国際競争力を支えてきたサポインをより高度化するための課題だから、高度化を実際に担える分野の層と一体になってイノベーションを進めていくしかない。
そうした中で本当に力のある層と、より川下に近い企業がタイアップし、大学や研究機関も入り込んで、プロセス型のイノベーションを仕掛けていくことが今回の課題だと思う。やっぱりとんでもないノウハウを持っているものの、たまたま資金力がないという話はゴロゴロあり、そういうところに仕掛けていくことはわれわれもやっていきたいし、課題でもある。これまでの新連携はプロダクト型のイノベーションなので、大田区内の場合は入りづらいし、いいものが出てこない」
-プロセス型のイノベーションとプロダクト型のイノベーションはどのように違うのか。
「新連携はどちらかというと、製品を生み出し、市場に流していくという枠組みの要素が強い。だからマーケットを視野に入れて組み立てられている製品型で、このプロダクトイノベーションはいわば開発の王道をいく話。しかし日本の得意とするところは、どちらかというとプロセスだと思う。プロセスの分野では、かなり革新的な要素を持っていくらでも開発できる部分がいっぱいある。結局、最終的には技術革新は生産財の取引でしか生かされない分野だし、決してストレートに消費財になるわけではない。いってみればマーケティングもまったく違う分野で、玄人との関係なのでこれはどちらかというと共同開発型だと思う」
「一方の新連携はマーケットをにらんでいるので、開発した後の事業化の過程が大きな要素になっている。それに比べるともっとベーシックな分野だと認識している。ベースとなる技術、プロセスを画期的にどうのこうのというよりも、今までそれぞれが持っている部分をかなり固め合わせるだけでもいろいろなことができる。新連携はそういった色彩が強い。そこへいくと、今度のサポイン対策は、もう一段奥に入ってベーシックな技術のところを何とかしなければいけないということだと思う」
-サポーティングインダストリーが今後も生き残っていくために必要なことは。
「工業統計によると、大田区の工場は2000年の6000から03年には5000に減った。3年間で工場が1000も減るというのは前代未聞の話で、これだけ激しい落ち込みはない。これは地域リストラがそれだけ進んだということで、やめられるところは一刻も早くやめたいといっており、まだ減っている過程にある。それはある意味で、10年、20年同じことをやっていて、かつてのようにまたいい時代が来るかといえば、それはもうさすがに限界だろう。だから、実態的にある程度の整理、地域リストラが進んだということで、残っているところはそれなりの特質、存在価値を持っているように思う」
「従って今後はここの部分の企業がむしろパワーアップしてくる可能性がある。またそうでないと日本全体がだめになってしまう。しかしあながち悲観的な話ばかりではなく、ここまで落ちてきたらこれからはよくなるしかないと思っている。現に自分のところの技術を生かしたいと思う層はかなり増えている。かつてのように下請けで親企業に指示された方向をただひたすら追い求めていれば、おこぼれにありつけるという時代ではない。やっぱり自分で自分の特質、技術力で切り開いていくという意欲は強い。その意味ではいいタイミングでサポイン対策が投げかけられたと思う」
-サポーティングインダストリー強化のために不可欠な政策はどうあるべきなのか。
「やっぱり政府がやる以上は、最後は公共財として取り扱われないとおかしいのではないかと思っている。川上側企業と川下側企業が組み合って取り組んだ結果、下手をすると、最後は川下側企業にみんな引き寄せられてしまい、成果が外に出ない可能性がある。どうでもいいものは外に出てくるだろうけれども、本当の財産になるものは独占したくなる。しかし政府がなぜ資金を出すかというと、それが広く利用されるからであり、何も特定の川下企業のみの専属性ではなく、もっと広がる必要がある。その辺の知財の所有関係などはきちんと持っているべきだと思う」
「エンドユーザーであるメーカーの技術のためだけにやるのなら、その企業が金を出せばいい。国の財産として金を出す以上は、その技術が特定の企業に独占されるのではなく、もっとほかにも広く利用されるような位置づけをすべきではないか。もともと本来のサポーティングインダストリーは、イメージ的には公共財だから、広く利用されてしかるべきだろう。だからそれを利用した企業が自分の分野で応用させて、さらに技術を独自に磨いていけることが望ましい。しかし、こういう切削加工法あるいは冷間鍛造法は特定のグループだけが利用でき、他には出せないのだという話では困る。ある程度の優先利用はやむをえないとは思うが、何も閉じられた中だけで終わってしまうのはまずいと思う。基盤技術をテコ入れするためにやるのだから、日本の企業にある程度の選択権を与えるのはいいが、難しいのは下手をすると実態が海外企業に流れ込むことがありうる。この辺は十分に注意する必要がある」
平成17年度 機械工業経済研究報告書「モノづくりを支えるサポーティングインダストリー強化の取り組み」より
