経済成長を追い求めるべきか・国民共通の課題解決が先
2010/01/18
経済成長を追い求めるべきか
大田区産業振興協会・専務理事 山田伸顯
政府は昨年末の臨時閣議で、急きょ「新成長戦略~輝きのある日本へ~」を決定した。環境・エネルギー、健康、観光などの産業を牽引(けんいん)役とし、2020年度までの平均で国内総生産(GDP)名目3%・実質2%の成長を目標に掲げている。新政権の政策に成長戦略がないとの批判に応えたもので、従来の公共事業依存や市場原理主義とは異なる第3の道である「需要からの成長」を起爆剤として打ち出している。
デフレ進行の悪循環
名目成長率3%というが、日本において年代のバブル経済崩壊以降一度も達成していない。それどころか98年から6回もマイナスを記録した。政権が交代したからと言って、日本経済の在り方が変わったわけではない。かつて米国に追いつくことを目標に高度経済成長を続けてきた成功体験から再び成長を夢見ようとするが、実現の可能性はあるのだろうか。
中国をはじめとするアジアが成長軌道を走っているのに、日本の経済が成長力を失った原因のひとつは人口の減少である。日本のGDPの60%弱を占めるのは家計消費である。勤労者世帯の家計所得は、97年に1世帯当たりの実収入がピークを迎えて以来低迷している。収入が伸びずに労働力人口が減少しているのだから、家計消費が縮小するのは自明である。今まで消費のみならず投資も活発でなく、財政支出も抑えざるを得ない中、輸出拡大による貿易の黒字に活路を見いだしてきた。しかし、原油・原材料高で輸入額が高騰し、その後世界的不況により輸出が急落したため、08年からマイナス成長を続けているのである。
内需拡大を図って経済成長を促すには、家計消費を高める必要がある。それには所得の増加が不可欠で、所得を増やすには、労働生産性を向上させるか、労働分配率を高めなければならない。需要が頭打ちになっている中で生産性を高めると、供給が増加してモノがあふれてしまう。今日のデフレの根源である。そこでリストラを強化すると、失業率が上昇し一層デフレが進行するという悪循環に陥っている。労働分配率も先進国のなかで特別に低いわけではない。
産業構造改革必要に
では、この閉塞(へいそく)状況を打開するにはどうすれば良いか。「新成長戦略」では、地球規模の課題を解決する「課題解決型国家」を目指して「グリーン・イノベーション」と「ライフ・イノベーション」による新たな需要を創造するとしている。これらは民間需要というより公的需要の色彩が強い。したがって、従来の産業構造から大きく方向転換し、重点産業をシフトすることが迫られる。しかし、これら公的なセクターが主導力を発揮すべき分野に民需を誘導するには、明確な方向性を示し財政支出を重点的に特化する必要がある。今、行おうとしている構造転換により既存のものに代替する需要を創出するには、GDPの構成を抜本的に変革することが不可避である。
もうひとつ日本において忘れてはならないことは、技術の先進性で国際競争に勝ち抜いた結果、世界一の対外純資産を保有していることである。貿易収支が減少する中、海外への証券投資や直接投資による収益である所得収支が15兆円を超えるまでになっている。中でも直接投資に伴う収益は、リーマン・ショック以降も伸びており、アジアを中心に現地法人が増加した効果が着実に表れている。これからの経済水準を見る場合、この所得収支をGDPに加算した「国民総所得(GNI)」の変化をとらえることが重要である。
結果であり目標でない
そもそも人口が減少に向かっているのに、成長を絶対命題として追い求めなければならないのか。88年から90年にかけて年率7%成長を続けたバブル経済のとき、地価の高騰などで庶民が住宅をもつなど夢と化していた。成長によって豊かさを実感できたわけではない。今日では成長は一種の幻想となっている。成長を期待するのでなく、喫緊の課題を解決することに注力すべきである。例えば、長寿社会の中で介護の需要にサービス供給が追い付いていないなどの問題を解決することは国民共通の期待である。成長は結果であって、目標ではない。
(日刊工業新聞 2010年1月18日付「卓見異見」に掲載)
