質的貿易で国際競争力を-最強の技術を殺すな-
2009/11/15
最強の技術を殺すな
大田区産業振興協会・専務理事 山田伸顯
円高で基幹産業低迷
為替市場は10月初めに1ドル=88円台まで上昇するなど、円高基調で推移し輸出産業の収益を直接圧迫している。一方、韓国は日本の低迷を尻目にウォン安により輸出が堅調な伸びを示している。しかも、韓国政府はウォン高を避けるよう介入する姿勢を見せている。
リーマンショック以降の金融危機では、当初影響が少ないと見られていた日本の方が発生源の米国以上に実体経済が悪化している。今年の「ものづくり白書」が表しているように、日本の基幹産業である電気機械、輸送機械、一般機械は、総需要に占める輸出割合と鉱工業生産の比重が米国よりはるかに高い。これらの輸出が2008年11月から急減したため、米国以上に産業全体がダメージを受けたのである。乗用車・トラック、工作機械の鉱工業生産指数が4カ月で50%下落するなど、まさに崖から転落する気分であった。
日本産業の国際競争力は、機械金属工業を主軸として世界最高の技術力によって支えられてきた。この基盤となる技術を担っているのが町工場といわれる中小企業である。先端技術開発を底辺で下支えし、フロントランナーとなった日本の産業発展を推進してきた。全国の工場数は、ピークの1983年に約78万であったが、05年には46万に減少し、中でも9人以下の小零細企業は4割以上なくなった。独自の技術力を持ち、高精度、低コスト、短納期に対応してきた企業が生き残っている。
しかし、今回の大不況は、これまで国際競争に優位であった技術力を根こそぎ崩しかねない。大企業に復活の兆しが見えているが、小企業に達するまでには至っていない。生産財部品を供給する中小企業が景況の好転を実感するまでに、まだまだ多くの企業が退出を余儀なくされることが懸念される。特殊部品の製作や難加工を迅速にこなすには、地域集積による企業ネットワークが不可欠である。専門特化した技術を結合することで、顧客の課題解決の要望に応えることができるからである。倒産・廃業による企業の減少は産業の集積構造を崩壊させる。
問われる創造的開発
この不況は、今後の日本がどのような方向に進むべきかという問いを投げかけている。これまで資源もエネルギーもない日本経済の存立基盤は、付加価値を生み出す加工貿易であった。その後アジアを中心とした生産拠点の海外シフトに伴い、国外からの所得収支が貿易収支を上回るようになった。しかし、日本産業の優位性を維持させるには技術革新が欠かせない。それがなければ、海外生産における競争力も低下するからである。その技術革新は、技術集積の厚みと優れたモノづくり人材が存在する国内で担う必要がある。
これからの日本の産業が取るべき方向は、量産技術を駆使した低価格商品を輸出することでなく、創造的開発によるコアの技術を供与する質的貿易に転換することである。したがって、これまでのように圧倒的な物量を輸出し、膨大な貿易黒字をもたらすことではない。我々団塊の世代が幼少時よりたたき込まれた加工貿易による黒字化という呪縛(じゅばく)からは解放されるべきであろう。何でも安くすれば良いのではなく、創造性が問われているのである。それにしても、このまま円高が続くとハイレベルの技術を輸出することさえ困難となる。9月に設立した新政権は、内需重視の姿勢を打ち出しており、円高局面に歯止めをかける様子が見えない。
バランスある構造に
貿易立国と言われる割に日本の貿易依存度(GDPに対する比率)は低い。輸出は特定の分野である基幹産業に偏っており、農水産物や観光などのサービスでは著しい輸入超過が続いている。内需重視とは、国内消費型の産業を育成し、自立した供給体制を構築することであって、消費者に給付金を配ることではない。生産財における最強の技術力を維持発展させながらも、バランスの取れた貿易構造をつくりあげることが、これからの日本が追求すべき課題である。そのためには、通貨の切り下げ競争は回避しなければならない。「東アジア共同体」を構築する第一歩として、通貨・金融の協調を提起していくべきであろう。
(日刊工業新聞 2009年11月16日付「卓見異見」に掲載)
