不況からの脱却に備えて
2009/08/12
不況からの脱却に備えて
財団法人大田区産業振興協会
専務理事 山田伸顯
この論文は、社団法人大森工業協会会報 第65号に掲載されたものです。
昨年(2008年)は、原油と資源の高騰により収益が圧迫されたかと思っていたら、9月に起こったリーマンショック以降急激に受注が減少し、売上80%ダウンという企業も珍しくない状況に陥りました。今、大田区の産業は90年代のバブル崩壊や20世紀に入ってからの低迷を超えた不況に突入しています。
一方、マクドナルド、サントリー、ユニクロといった低価格・高品質を標榜する衣食の産業や、ニンテンドー、ディズニーランドという家庭や近場でのアミューズメント産業など、消費財と関連サービスの中には空前の収益を上げるところも現れています。家計消費の水準も、雇用情勢が悪化しているにもかかわらず10%以内の減少に留まっています。つまり、今回の経済不況は一般消費財不況ではなく生産財不況・耐久消費財不況と言えるのです。
大田区では機械部品など生産財という中間製品の製造を得意としています。なぜ生産財不況・耐久消費財不況が引き起こされたかというと、日本は輸出によって経済が浮上してきたのですが、欧米を中心とした世界的不況により輸出額の70%以上を占める自動車、電気機器、一般機械などの金属・機械製品と部品の輸出が昨年の11月から急減し、大田区のような機械金属産業集積地で製造される部品が売れなくなったことが原因です。これらの部品は、輸出される製品の生産にも使われていますが、海外に生産拠点シフトしている今では、直接海外に輸出されグローバルに使用されているのです。
ですから大田区の製造業にとっては、エコカー減税や省エネ家電のエコポイントは、生産財産業にも短期的ではあるが刺激を与えてくれるものとなりますが、定額給付金のような消費喚起策では直接恩恵を受けることが期待できないのです。本格的な環境技術開発や医療体制整備など喫緊な課題に対して2兆円もの予算が配分されていれば、課題解決に向けて大田区企業の技術を生かすこともでき、日本全体の産業の活性化に波及効果が現れたであろうと考えます。
景気動向に先行する鉱工業生産指数が、昨年11月から今年2月までのわずか4か月で約30%(機械工業では約40%)も急落し、まさに崖から転落する状況と言っても過言ではありません。戦後における過去の例を見ても、全分野の生産財・耐久消費財が世界で同時にしかもこれだけ急激に不況に陥ったことはないと思います。しかし、この不況感も4月にはようやく底を打ち、5月から輸出も反転し始めた様子ですし、自動車産業でも在庫調整が終わり生産増強に転ずる気配も見えています。
90年代の不況が徐々に進行したためかえって長期にわたったことや、21世紀のITバブル崩壊の影響は3年以内に回復したことと照らし合わせて見ると、今回の全世界的落ち込みは比較的早期に回復するのではないかという予測ができます。なぜなら、世界の経済成長は止まってはいないからです。日本は人口減少に転じましたが、アメリカはこれからの40年で約1億人の人口増加が推計されているなど世界では人口増加が続いています。このことは1人当たりの所得水準が同じでも世界の総需要は拡大するということを意味します。つまり、グローバルな経済は成長せざるを得ないのです。
ですから、グローバルな産業に関わる生産財を供給している大田区の企業は、グローバル経済が持ち直すと急速に需要が増加する可能性があるのです。ただし、アジアの他の国でもできるような技術であれば日本に戻らないでしょう。より高度な技術、微細で精密な加工技術、難削材などを取り扱う特殊技術、顧客に対して提案できる技術サービス力など、これまで大田区の企業がチャレンジし積み上げてきた追随を許さない総合力と企業間のネットワークを生かしたモノづくりこそが求められることになります。
もう一つの方向は、アジアとの結びつきをより強化し、積極的にアジアの市場を開拓する道です。大田区企業のうち既に6社が、タイにおける工業団地に設置された「オオタ・テクノ・パーク」に入居しています。羽田空港が来年10月に再国際化することを機に、区としてはここを大田区中小企業のアセアン展開の拠点として、現地工場の有無に関わらず、市場開拓を支援しようと計画しています。
大田区の工業団体を代表する大森工場協会の企業の皆さんが、常に技術を研鑽することにより、世界の加工技術センターとしてグローバルな先端技術の発展を支える中心的役割を担うことを期待します。
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| 松原区長 オオタ・テクノ・パーク入口にて | オオタ・テクノ・パーク工場内作業 |
