大手自動車企業の工場を視察して
2007/09/05
(財)大田区産業振興協会
企業支援グループ産業支援施設チーム
コーディネーター 多田見 茂
平成19年6月、東京産学交流会・サザンクロス(日刊工業新聞社南東京支局:事務局)主催のトヨタ自動車株式会社堤工場(豊田市)の見学会に参加した。
一行は、堤工場の組立工場や溶接工場を見学後、トヨタ会館にてハイブリッドカーや最新モデルの車を見学し、トヨタシアターでロボットによる演奏を観賞した。トヨタ自動車では、工場見学について予約制で年齢や服装等による制限を設けているが、一般にも工場見学を受け付けている。トヨタ会館・工場見学
さすが自動車業界NO1の企業らしく工場内の汚れもなく、非常にスピード感があり、従業員は黙々と業務に取り組んでいた。生産の効率を追求するため、従業員のスキルアップもさることながら、時間と工程管理をスムーズに行っていくためには、肉体的負担が多くかかるのではないかと感じた。
また、見学中に間に合わない場面があり、従業員がひもスイッチが入れて、職制がひもスイッチを解除して迅速にフォローに入っていた。工場内は、ロボット工程も多く見られるが、人間が工程に携わる限りミスが生まれる要因はなくならない。トヨタ自動車(株)では、全国から従業員や期間工を募集していると聞いたが、スピードを追求するあまり肉体的にかかる負担が多いため、若い人材を多く採用する必要があると感じた。
工場見学終了後の質疑応答では、「アンドン」、「かんばん方式」、「ジャストインタイム」、「自働化」、「カイゼン」、「ムダ」等と言った実際に使われている専門用語が出てきた。この質疑の雰囲気は、自然に緊張感のあるものになった。トヨタ生産方式は、現場から生まれたモノづくり思考である。
トヨタ会館入口
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未来コンセプトビークルアイユニット
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同じく平成18年5月、東京産学交流会・サザンクロスの例会にて日産自動車(株)追浜、横浜工場の見学をした。私は、平成12年からスタートしたNRP(日産リバイバルプラン)で従業員はどのような意識で取り組んでいるか興味があった。
追浜工場の生産ラインは、平成15年5月に変更した。この内容は、1.太く短いラインの指導 2.人にやさしい工程の実現 3.サプライヤーとインテグレートを目的にした。ラインでの作業では、通常鉄板の上で作業していたが、これを木板にしたことで肩や腰に掛かる負担が少なく作業者が疲れにくくなったとのことであった。日産自動車(株)の広報担当者は、「従業員の能率が落ちることは品質や効率に影響する」と説明していた。これは、ルノーで行っているものを採用した結果である。ルノーの良いものは取り入れ改善を続けていく様子が伺えた。
また、工場には、「親しみやすさ」があると感じた。それは、従業員が作業をしながら会話をしており、アットホームな雰囲気であっためである。しかし、この会話は、決してさぼっているのではなく、その場で意見交換を行ない、課題を先送りしていかないことを目的としているためであり、企業文化として確立していると感じた。 そして、日産自動車(株)の広報担当者が工場内の様子を「無駄な費用を掛けずに良いものを作るため」と説明したところについて、常に良い自動車を作るとともに従業員を大切にしていこうとする企業姿勢を感じた。
日産自動車(株)横浜工場内エンジン博物館にて
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追浜工場内会議室にて
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平成17年12月、次世代経営者交流訪韓団のプログラムの一環でルノーサムスン自動車の韓国工場を見学した。ショールームでは、エンジンやサスペンションといった車に関する構造を紹介するものや最新モデルの車種などを見学した。また、広い敷地にもさることながら、工場内における最新鋭の機械設備はとても壮観であった。また、工場敷地内に病院も完備しており、従業員のケアもしっかりと対応する企業姿勢は、ヨーロッパ流の考え方をうまく取り入れていると感じた。
ルノーサムソン自動車釜山工場
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ショールーム内
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最後に少し昔になるが、平成16年3月、東調布工業会主催の企業見学会に当協会の伊藤相談員とともに参加し、本田技研工業株式会社高根沢工場を見学した。広報担当者から工場の概要説明を受けた後、工場内を見学した。工場内は、整理・整頓されており、従業員は黙々と作業を行っていた。
この工場は、大量生産していく車種ではなく、ホンダの高級スポーツカーNSXやS2000の生産工場であった。これはNSXを生産するのにあたって、フェンダーやボンネットはもとより、骨格となるモノコック(注1)部分までも他車に類を見なかったオールアルミボディで形成するため、エンジン等は系列の製作所からの納入で、製造工場と言うよりは組み立て工場といった趣であった。
平成16年4月、ホンダの完成車一貫生産構想に基づき、高根沢工場での全車種の生産を中止し、三重県鈴鹿市にある本田技研工業鈴鹿製作所へ生産を移管。大量生産車種を作る既存の生産ラインとは別に、高根沢工場で生産されていた車種の専用生産ライン、TDライン(注2)をつくった。また、高根沢工場で生産に従事していた作業員たちもTDラインに多数移り、そこでは高根沢工場生産時とかわらない手作業中心の手間を掛けた生産が続けられている。
日本人の持つ技術の中に「匠」を求めてしまうのは、生産効率の面からすると利益相反になるかもしれない。私なりにそれぞれの企業を工場から見た雰囲気で例えると、トヨタ自動車(株)は、あくなき生産効率を進めるストイックな「筋肉体質強化経営」、日産自動車(株)は、人の感性とデザインによる「家族主義経営」、本田技研工業(株)は、匠を追求する「こだわりの職人の工場」という印象であった。
大田区の企業は、これらの企業と付き合っていく上で、それぞれの企業の特徴を掴む必要がある。それは、機械金属加工業を多く占める区内企業も個々の内容はまったく違うからである。日本の大手自動車3社を見学した上で「区内企業の現場に課題がある」との認識を強く感じた。引き続き、協会事業にこの経験を活かしていきたい。 ※本田技研工業(株)高根沢工場の詳細については、フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)本田技研工業(株)高根沢工場
を参照(閲覧日:2007.7.17)。
(注1)モノコック・・・最も一般的なボディ構造で、シャシーフレームとボディフレームを一体化させていて、軽量で剛性も高いという特長を持つ。最近では事故の際の安全性を高めるために、衝撃吸収構造としたものも多い。
(注2)TDライン・・・匠 (takumi) ドリーム (dream) ラインの略。
