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世界的不況に日本のモノづくりはどのように立ち向かうべきか

2009/02/18

世界的不況に日本のモノづくりはどのように立ち向かうべきか
―ソリューション(課題解決型)サービスとしてのモノづくりへ―

財団法人大田区産業振興協会専務理事 
山田 伸顯

金融危機が発端となって世界的大不況の嵐が吹き荒れています。「元気なモノ作り中小企業300社」に選ばれた力のある中小企業でも、再生を余儀なくされる状況が生まれています。日本を代表するモノづくり集積地である大田区において、中小企業がこれからどのような方向に進むべきか、自社の得意とする技術と経営の独自性をもう一度認識し、それに立脚して経営戦略を再構築する必要があるのではないでしょうか。

日本はこれまでモノづくりを基軸として、今日の貿易立国としての地位を築き上げてきました。その背景には戦後日本の経済に対する危機意識がありました。私たち団塊の世代も、日本には資源もエネルギーもなく外国から輸入しなければならないのだから、輸入した原材料を加工して付加価値を高め、それを外国に輸出して外貨を稼がなければならないと、幼少期より叩き込まれて育ちました。したがって、加工貿易と輸出を増やして貿易を黒字にすることについて、絶対真理として何の疑いもなく骨の髄まで浸み込ませてきました。輸出額の76%を占める機械金属産業を中心に、国際競争において他国を圧倒してきました。

しかし今日では、日本はもはやモノづくりが成り立つ国ではなくなったということを述べる識者も多くなりました。貿易の黒字を支える使命を負わされた加工・組立というモノづくりでは、確かにコストパフォーマンスにおいて技術が高まったアジアの国々に敵わなくなりました。けれども、それはモノづくりを従来のイメージで捉えた見解に過ぎません。それらの国で優位になっている技術は、量産の加工組立であり、開発を支えるような特殊な高度技術ではありません。

日本の技術は、精度・難度や多様性・複合加工力において未だに他を圧倒するレベルであり、特に町工場といわれる中小企業が有する難題への対応力は傑出しています。単なる下請ではない、ソリューション(課題解決型)サービスを提供するモノづくり企業が多数現れてきました。これからの日本のモノづくりは、量から質への転換が求められています。つまり、ひたすら貿易黒字を志向して低コストのものを大量に生産し、輸出するというのでなく、成熟した製品は輸入し、優位性のある技術を輸出するというバランスの取れた国際貿易に転換することです。優れた基盤技術をさらに極めることで、世界の製造業が抱える様々な問題に適正な解決策を与える母工場の役割を果たすべきでしょう。新たな産業を生み出す母胎となって、技術を核にした世界に貢献することこそが日本の歩むべき方向と考えるのです。

今後日本の人口が急減していくにつれ量的輸出の限界が明確になり、貿易黒字が縮小しあるいは赤字化する可能性があります。実際、昨年8月以来貿易赤字が顕在化しています。そのときには今日ほどの円高ではなくなることも考えられます。もちろんそれまでに、現在の日本の食料自給率が40%を切るという、先進国でもあり得ないような外国への食糧依存が異常に高い状態を改善する必要があります。また、国際旅行収支においては日本の支出が収入の3倍にも達するなど、サービス貿易全体の収支がアンバランスとなっており、これまで機械金属産業の国際競争力のみに頼ってきた貿易のあり方を変えなければなりません。

以上の問題意識のもと、日本のモノづくりをどのように活性化すべきかをテーマにして、このたび私は日刊工業新聞社から「日本のモノづくりイノベーション―大田区から世界の母工場へ」という著書を出版しました。大田区を中心とする64社の企業事例にもとづき、具体的にモノづくりサービスを実践している企業の取り組みを踏まえて、中小企業のイノベーションのあり方に言及しています。

一部紹介します。


はじめに

日本は世界に冠たる貿易立国として、国際収支の黒字を続けています。輸出の大きなウェイトを占めるのが製造業で生み出した財で、中でも機械金属の工業製品が総額の約76%に上ります。つまり、日本の国際競争力の強みは機械産業を中心としたモノづくりであり、モノづくりこそが日本産業の根幹であり、日本経済を支える原動力なのです。

ところが今、その日本におけるモノづくりのあり方が問われています。

ひとつは、日本の産業における「モノづくり」の地位の低下です。製造業のGDP(国内総生産)に占める割合がおよそ4分の1に減少し、これからの日本の成長を支えるのはサービス産業であるという見方がでてきています。経済の発展に伴い産業構造が変化し、先進国は第3次産業のウェイトを高めていきました。第3次産業を広い意味でサービス産業と捉えてみれば、今日では、情報産業が飛躍的に増大し、医療・福祉といったビジネスも成長分野も参入してきています。一方、就業人口で見ても、日本全国の製造業従業者数は年々減少し、全産業の従業者数の2割を切ってしまいました。

もうひとつは、発展途上国、中でもアジアの技術的発展によって、低コストで質の良い製品がつくられ、日本に輸入されるようになり、工業製品は日本製が一番という絶対的な優位性が大きく揺らいでしまったことです。日本のメーカーのブランドが付いていても、メイドインジャパンとは限りません。2002年には日本にとって中国からの輸入額が世界一となったことからも明らかなように、中国に進出した日本企業の膨大な製品が逆輸入されているのです。日本でモノづくりをしなくても、日本の経済が成り立つと思われてしまっているのです。

国内に留まっている多くの中小企業は、得意先が次々にアジアに移転し、取引の打ち切りや受注の削減を余儀なくされるようになり、このままでは存続が危ぶまれるという不安に駆られています。

こうしたグローバル化の流れに加えて、地球環境問題が大きくクローズアップされてきました。地球号という限られた宇宙船の中にいることを自覚して、経済活動を行わなければならないという認識が広まり、モノづくりにおいても従来の発想からの転換を迫られています。

さらに、日本においては、世界の中でも際立ったスピードで少子化と人口減少が進行しています。団塊の世代が人口ピラミッドの底辺を担っていた時代の社会構成から、高齢者が増加し、逆ピラミッドの人口構造に変わったことにより、年金問題が政権の行方を左右する政治社会問題になってきました。

これと同様に、中小企業が大幅に減少し、従来とは異なる産業構造に変化しているにもかかわらず、大企業はこれまで通り、都合のよい下請関係が持続するという錯覚をしているため、双方のミスマッチが深刻になってきています。

このように、モノづくりを取り巻く経営環境が劇的な変化を遂げる現状において、日本の製造業はこれからどのような方向に展開すれば道が開けるでしょう。機械工業を中心とした産業のまち大田区において、企業と支援機関がともに取り組んできた実践を通じて、日本のモノづくりのあり方を考えてみたいと思います。

今回、私が30年間にわたってサポーターとして関わってきた、大田区を中心とする中小製造業を改めて訪問し、取材する中で二つのことに気付きました。

一つは、サブプライム問題を引き金としたアメリカ発の金融危機が深まるにつけ、資金の流れの詰まりや資材高騰、世界同時株安に伴う急激な景気の悪化等々、虚業の経済システムの崩壊と対照的に、日本の実体経済を支えるモノづくり力の強さが際立ってきて、その存在価値をあらためて強く示しているということです。

二つ目は、大田区は、東京の市街地にありながら、傑出した技術を持ってチャレンジし続ける未知の企業が数多く存在していること、そしてモノづくりの現場を維持している中小企業は根強いということです。

しかしながらこれからは、従来型のモノづくりを変わらず続けるのではなく、何らかの技術革新(イノベーション)が常に求められます。そしてそれなくしては、中小企業はなかなか元気になれませんし、日本のモノづくりが危なくなります。日本のモノづくりが衰退すれば、日本の経済力が失われます。私の価値観と生き方に大きな啓発を与えてくれた中小企業に対する恩返しのつもりで、多少でも薬になる処方箋を書きたいと思ったのが執筆の動機です。


事例として以下の64社・4学校を紹介しています。

株式会社アイオイ・システム 株式会社葵精螺製作所
株式会社旭製作所 アベテクノシステム株式会社
株式会社飯山特殊硝子 有限会社岩井製作所
株式会社インクス 江崎工業株式会社
ヱビナ電化工業株式会社 有限会社エムワン精工
有限会社エムワン精工 株式会社大嶋電機製作所
大森学園高校 岡田鈑金株式会社
合資会社加藤研摩製作所 株式会社上島熱処理工業所
北野精機株式会社 株式会社協立工機
有限会社共立模型製作所 協和工業株式会社
株式会社クマクラ 株式会社クライム・ワークス
高電工業株式会社 有限会社後藤金型製作所
小松ばね工業株式会社 株式会社笹川製作所
東京都立産業技術高等専門学校 株式会社三幸精機工業
有限会社サンヨー精工 株式会社三和電機製作所
株式会社篠崎製作所 株式会社城南キー
株式会社昭和製作所 株式会社信栄テクノ
新興機器株式会社 株式会社新興セルビック
セントラル技研工業株式会社 ダイヤ精機株式会社
株式会社平精工 株式会社タシロイーエル
株式会社タンケンシールセーコウ 株式会社TKR
株式会社東北TKR 電化皮膜工業株式会社
株式会社東京鉸製作所 トキ・コーポレーション株式会社
トキワ精機株式会社 株式会社長津製作所
株式会社並木金型 株式会社南武
新妻精機株式会社 株式会社西居製作所
日進工業株式会社 日進精機株式会社
日本工学院専門学校 ふくはうちテクノロジー株式会社
冨士ダイス株式会社 堀越精機株式会社
株式会社松尾工業所 株式会社マテリアル
株式会社ミクロン 株式会社三津海製作所
三益工業株式会社 宮城精工株式会社
有限会社モステック 株式会社ヤシマ
株式会社矢部光学器機製作所 株式会社ヤマト
株式会社リーテム 東京都立六郷工科高校

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